どうみても本物に見えてしまう
アーニョ・ビエホの人形この年末年始は、リマから190kmほど北にある海沿いの街バランカで過ごした。「年明けを地方で過ごすのも面白いよ」と友人夫婦からお誘いをいただいたからだ。首都リマとはどんな風に違うのだろう? 何か面白いことはあるかしら? と興味津々の私は、ありがたい招待を受け友人宅に泊めてもらった。
まずは年越し蕎麦ならぬ年越し料理を。ペルーでは、大晦日のディナーは七面鳥や鶏の丸焼きと相場が決まっている。鶏の丸焼きならお店で焼きたてを買ったほうが楽だと、知人が買い出しに行ってくれた。しかし待てど暮らせど帰ってこない。どうやら店が相当混んでいるようだ。
いつ戻ってくるのだろうとやきもきしているうちに、それまで散発的だった花火や爆竹の音が激しさを増し、とうとうカウントダウンが始まってしまった。リマは打ち上げ花火が主流だが、バランカはロケット花火が優勢だ。そこに爆竹音も混じりあい、ものすごい迫力の中で2010年を迎えたのだった。あけましておめでとうございます。
鶏の丸焼きとフライドポテトで新年を祝うそして路上では「アーニョ・ビエホ(ano viejo)」が行なわれていた。大晦日の夜にダンボールや古着で作った人形を燃やし厄払いをするというこの習慣は、中南米でよく行なわれているものだ。しかし人形といっても等身大のもの。しかも「あれは嫌いな人間を燃やしているんだ」と言われ、思わずギョッとしてしまった。後で冗談だと知ったもののそれほどリアルな人形だったのである。これだけ威勢よく燃えると厄はしっかり払えそうだが、飛び散る火の粉が危なくて仕方がない。厄払いの火の粉を浴びると縁起がよいとはいうが火傷はご勘弁と、早々に退散することにした。
さて、やっとの思いで鶏の丸焼きを手に入れた知人が帰ってきた。ここで改めて新年を祝って乾杯する。この時に忘れてはいけないのがブドウだ。新年への願いを込めて12粒のブドウを食べる。アーニョ・ビエホも見たしブドウも食べたし、今年はきっといい年になるだろう。
そして翌日。元旦のお節料理はセビーチェだ。新鮮な魚介をレモンと唐辛子でマリネしたセビーチェの汁は「レチェ・デ・ティグレ(Leche de Tigre)」と呼ばれ、ペルーでは二日酔いに効くと言われ ている。遅くまで食べたり飲んだりして相当疲れていたはずの私の胃だが、このさっぱりしたセビーチェの汁のおかげでまた食欲が湧いてきた。いやはや、自分でも良く食べられるものだと感心してしまう。 ちなみに「ティグレ」とはトラという意味(綴りをご覧あれ)。寅年にこれほど相応しいお節料理もないだろう。南半球のペルーでさっそくトラの恩恵を受けた私、さて今年もペルーグルメを食べ尽くすとしよう。
年越しにブドウを食べる習慣は、
スペインから伝わったそうだ
レモンと唐辛子のさっぱりとした味が、
疲れた胃もしゃんとしてくれるあ、そうそう。
アーニョ・ビエホの火の粉、翌日顔や手にバンドエイドや包帯を巻いている人を何人も見かけたが、ペルーでは特にその火の粉にはご利益がないらしい。ただただふざけ過ぎて火傷を負ったお調子者ということだが、とりあえず大事に至らずよかった。ほっ。