妻の自宅ワークスペース拡張を受けて、レコード棚を2階から1階へ移動することになった。作業としては、早い話がいったんレコードをすべて出して空になった棚を運べばいいのだが、ひとくちに「レコード棚を動かす」といってもそう簡単でない。なにしろ入っているレコードの枚数が1500枚くらいあるからだ。
しかしまぁそれも少しずつやればすむことなので、レコードの運搬はボチボチやることにして、棚自体をどうやって2階から1階へおろすかで、いま頭を悩ませているところなのだった。いったん分解するか、それとも……。やってみなければわからないのでともかくやるしかないのだが。
ところでそのレコード棚の移動がなんとかなったとして、その先にもうひとつの問題が待ち受けている。レコードを再度収納するときの分類法だ。現在ざっくり5種類に分類されているその並べ方をどうするか。これがたいへん悩ましいのであります。
今回は簡単美味な「「干し柿とチーズのおつまみ」を。
彩りもいいですね
現在の分類は大きく分けて
・ROCK
・JAZZ
・JAPANESE
・NEW WAVE
・CLASSIC
の五つ。これは前回、重さに耐えかねた棚が自己崩壊しそうになってレコードをいったん出し、修繕して再収納したときの分類で、おおむねこれで問題はないものの、ちょっと引っかかることがある。NEW WAVEという項目の判断基準である。
NEW WAVE。今ではあまり使われないジャンルの呼称だが、有り体に言うと70〜80年代、イギリスで誕生したパンク・ロックに始まる「新しい音楽」の総称で、僕の中ではセックス・ピストルズから90年代前半のインダストリアル、ノイズ・ミュージックあたりまでをそう括っている。
まぁ今でも全体としては「ニュー・ウエイブという括りのままでいいんじゃないか」と思える音楽がほとんどだが、困るのは現在も活動するバンドやミュージシャンで、「この人達は個人的にはもうそう言う分類ではないなぁ」と思われる人達をROCKの項目へ移動したりしたので、盤を探すときに移動したことを忘れて「どっちに入れたっけ?」とわからなくなってしまうことが往々にしてあることだ。
だいたい今ならROCKやPOPに分類されそうな、メジャー(主流という意味で)と言っていいU2やエブリシング・バット・ザ・ガールだって、一連の「NEW WAVE」の文脈の中から生まれてきた音楽だから、つい数年前まで僕のレコード棚の中ではその括りの中に並べられていたのである。彼らの盤は今では「ROCK」の項に移動しているものの、未だに当初の印象が根強く残っていて、思わずNEW WAVEの棚を開けてみたりしてしまうのだった。
これはJAZZの分類でも同じようなことが言える。以前JAZZのアナログ盤がだんだん増えてきた頃、「楽器の種類」や「歌もの」で分類しようとして失敗した経験があるからだ。
楽器の種類。たとえばビル・エバンスは「ピアノ」の項、セロニアス・モンクやレッド・ガーランドなどとともにアルファベット順に。マイルス・デイビスなら「トランペット」の項にディジー・ガレスピーやアート・ファーマーなんかと一緒にアルファベット順に並べる、ニーナ・シモンやエラなどヴォーカルものも同様に……という具合に分類していた。
ところがこれだと複数のミュージシャンが参加している場合があって、楽器分類が不可能なケースが出てくるのだ。ましてや器楽演奏者名と歌手名が併記される場合、たとえば「ビル・エバンスとトニー・ベネットが一緒」とか「サラ・ボーンがクリフォード・ブラウンと一緒」などという場合で、これらをどっちの基準で分類したものか判断に困る、あるいはどっちに分類したか忘れて、延々とレコード棚の前で盤を探す時間が長くなってしまったのである。
現在はおおよその個人的な印象で「JAZZに分類するかどうか」を判断、ヴォーカルも器楽もオーケストラもすべてをアルファベット順に並べてたいへんに検索しやすくなった。そこでこれと同様、現在「ROCK」と「NEW WAVE」に分類している盤すべてをこの際統合、アルファベット順に並べるべきかどうか迷ったのである。
何しろここ にある通り、一般的概念でいうとニック・ロウもロキシー・ミュージックもフーターズも、ポリスでさえもNEW WAVEという分類に括られていた時代があったのだ。もちろん当時の空気を経験している身からすると、そう分類したくなる気持ちはよく理解できるが、今となってはわかりにくい。だからいっそ合体してはどうかと思ったのだ。
しかしそうするとどうしても違和感が生まれることは避けられない。たとえばジョニ・ミッチェル(Joni Mitchellフォーク・ロック系)の隣にジョイ・ディビジョン(Joy Division ポスト・パンク系?)、あるいはイーグルス(Eagles イーストコースト系)の次がアインシュトゥルゼンデ・ノイバウテン(Einstruzende Neubauten ノイズ・アヴァンギャルド系)、というのはどうにも収まりが悪いように感じてしまうのである。
まぁどちらもけして嫌いな音楽ではないから、個人的には同等といってもいいのだが、ここはやはり「その時なにを聴きたいか」という気分を大事にしたい、と思うのは人情というものだろう。
そこでこうすることにした。「ザックリした気分」で分類するのである。いや、分類というよりはNEW WAVEという項目をさらに厳選し、「ちょっと攻撃的な気分の時に聴きたい音楽で、個人的にNEW WAVEっぽい、と感じるもの」だけをあらためて一括りにして新たな別枠を作る、と言ってもいいかもしれない。じっさいやってみないとわからないが、この「気分」によるファジーな分類、案外いいのではないかと思っているのだがどうだろうか。
そういえばずいぶん前、南伸坊さんが書棚における「本の分類」について書いていたことがあって、それは「背の色」と「サイズ」による分類というかなり斬新な方法だったが、その実際を写真で見ると妙に説得力があったことを思い出した。
第一に「美しい」。そして「本の背」というビジュアルを記憶している、という点で「その本をオブジェクトとして把握している」ことが本に対する愛情のように思えて納得したのである。レコードの背は一体に狭いからそれはできない相談なのだけれど、中には「背だけでわかる盤」も数多くあって、ちょっと魅力的な分類法ではあるのだった。
というわけで、棚はどうしてもそのままでは階段を下ろすことができず、いったん分解することになったのだが、再度組み立てたところうまくいかず崩壊。現在およそ350枚ほどが床に並べられて棚の修繕計画を練っているところである(今ここ)。
他にもいろいろと頭を悩ませる案件もあり、ちょっと気苦労の多いこんな日はマジ簡単な「干し柿とチーズのおつまみ」を。気が遠くなるほど簡単なのにおいしい素適な一品です。白ワインのスターターにぜひどうぞ。干し柿ってレモンを絞ると杏みたいな味になるんですよ。新発見。
しかしああいう組立式の簡易家具って何度も分解・再組立するのには向いていないなぁ。ネジ穴が広がっちゃって強度が弱くなるんだよね。まぁ20年も使ってるからそんなもんなのかもしれないけどさ。
しょせん集積材ってダメね、と書いて今回もこの辺で。次回は雛祭、3月3日更新の予定です。
【Panjaめも】
●私、あの「まぐまぐ」でメールマガジンを発行しております。
「モリモト・パンジャのおいしい遊び 」
こちらでサンプル版もご覧になれます。
登録申込当月分の1カ月は無料でお読みいただけますので、どうぞよろしゅう