【初春は温泉】アンデスの渓流露天風呂

ペルーは日本と同じく火山国だ。そのため地震も多いし、過去にはアンデスの村々が一瞬で消失してしまうほどの大きな噴火も経験している。だが火山がもたらすのは悪いものばかりでもない。そう、温泉だ。

ペルー南部のアンデスの街、アレキパ。そこから車で3時間半ほど北上した先に、ヤンケという小さな村がある。ここはコルカ渓谷に生息するコンドルを見学するツアーの中継地点となっているが、村の規模は小さく、宿泊客もそう多くない。そんな寂びれた山村だが、隠れた名泉が存在する。

20150105_a.JPG
日中はほとんど人通りのないヤンケのアルマス広場。
右手奥に見える標高5976mのサバンカヤ山も活火山のひとつだ
アマゾン川の源流とされるミスミ山。その裾野を流れるコルカ川沿いに目的の温泉はあった。手作り感いっぱいの吊り橋を渡ると、日本人の郷愁を誘う風景が広がっている。燦々と降り注ぐ太陽の光に、ゆらゆらと吸い込まれていく白い湯煙。川面を渡る風も心地よく、富士山の頂上より高いという事実を除けは、日本の渓流温泉となんら変わらない。強いて言えば水着着用が義務付けられていることぐらいだろうか。裸同士のお付き合いを好む向きには、少々物足りないかも知れないが。

20150105_b.JPG
吊り橋を渡って温泉へ。このワクワク感が堪らない
三つある湯船のちょっと先に、原泉の湧き出し口がいくつかあった。硫黄分が多いのだろうか、地面が鉄さび色に染まっている。この温泉を管理するご夫婦の話によると、原泉はおよそ80度もあるそうだ。手作業で川の水と混ぜ、湯温を調整しているという。

20150105_c.JPG
鉄さび色に染まった原泉の湧き出し口
朝早く出かけたおかげで、私がこの日いちばんの客になった。休憩所で水着に着替え、露天風呂に浸かる。少々熱めだが、いいお湯だ。標高のせいか外気温はそう高くなく、時折湯から肩を出せば火照った身体もすっと冷める。とはいえアンデスの陽射しは強烈で、日よけのタープがなければあっという間に顔だけ日焼けしてしまいそうだ。自分が世界の屋根アンデスにいることを改めて実感する。

20150105_d.JPG
真っ青な空に白い雲。最高の眺めだ!
コルカの民族衣装を着たセニョーラが、「湯加減はどうだい?」と訊ねてきた。「いいお湯だね。日本人は熱いお湯が好きなんだよ」と答えると、「そりゃ物好きだねぇ」と言いながら、原泉を私達の湯船に引き入れてくれた。熱い湯の塊がどっと流れ込んでくる。ああ、極楽、極楽。

しばらくすると、欧米の団体客がやってきた。充分に貸切風呂を楽しんだことだし、彼らに場所を譲るとするか。「オラ、こんにちは!」、「どうだい? 気持ちいいかい?」などと挨拶をかわした男性が飛び込むように湯に入った途端、「ワオッ! これは熱い!」と悲鳴を上げたのが少し可笑しかった。きっとあのセニョーラが、彼らにちょうどいい湯加減まで調整しなおしてくれるだろう。裸のふれあいこそないが、いろんな人たちとちょっとした会話が楽しめる。ペルーの温泉はそれで充分だ。