【晩秋は駅】北の果てで人と人を結びつける”空”の駅――キッティラ空港

フィンランド語で「空港」のことをレントアセマ(lentoasema)と言う。レントは「飛行、飛行機」、アセマは「駅」で、「飛行機の駅」である。
国土面積(約33.8万平方キロメートル)が日本(約37.8万平方キロメートル)より少し狭いぐらい、その大半は森に覆われ人口密度の低いフィンランド。特にサンタクロース村のあるロヴァニエミ以北は鉄道網が限られているので、飛行機は長距離バスと並んで重要な交通手段だ。

20141110_a.jpg
北極圏にある空港のひとつ、キッティラ空港
北緯66度33分以北のラップランド(フィンランド語でラッピLappi)と呼ばれる北極圏域には、空港が五つある。そのうちのひとつがキッティラ空港。真冬には1日の日照時間が5時間程度、真夏には1カ月以上も日が沈まない白夜が続く。冬の平均最高気温はマイナス10度前後。植物生育に厳しい環境で、木々はかぼそく背丈が低い。極北の土地に立ってみると、どこまでも限りなく続く幻想的で過酷な荒野が静寂とともに目の前に広がる。

20141110_c.jpg
“北の果て”の幻想的な風景
その一方で、キッティラのシルッカ村レヴィはウィンターリゾート地として有名で、スキーシーズン中にはフィンランド国内だけでなく、ヨーロッパ各地から人が集まる。普段はフィンランド国内主要都市からの飛行機が到着するのみのキッティラ空港だが、スキーシーズン中はヨーロッパ各地から飛んでくる飛行機でいっぱいになる。スキー場周辺のホテルやコテージはフィンランド建築のモダンなつくり。幻想的でモダン。そんな北の果てにひかれる芸術家も多く、実際に移り住んで芸術活動の拠点にする人もいる。

ラップランド地方の人口密度は、1キロ平方メートルあたり0.78人(ちなみに日本は336人。北海道で69人)。トナカイ数(約1万2000頭、2013年トナカイ飼育者協会調べ)が人間(6483人、2014年1月人口台帳センター調べ)より多い。この地で暮らす人々は、用事があれば「飛行機の駅」から大きな街へ出かける。冬には「飛行機の駅」を拠点にして、ヨーロッパ各地から人が集まる。

20141110_b.jpg
荷物受取レーンにもトナカイの角が
『星の王子さま』の作者サン・テクグジュベリは、夜間飛行中の空から「星々のように草原の中に散在する数すくない灯火がまたたたいているだけの、暗い夜の模様」を眺め、「ぽつんぽつんと、田園のなかに、それぞれの糧を求める灯」そのひとつひとつが結びつくことを想像し願う。フィンランドの北の果てで「飛行機の駅」は、人と人を結びつけているのだ。

20141110_d.jpg
キッティラから首都・ヘルシンキへ向かう便