【晩秋は駅】未来の文豪が集う駅――デサンパラードス

ユネスコの世界遺産にも登録されているリマの旧市街セントロ。美しい教会や歴史的建造物が立ち並ぶこのエリアには、世界中の観光客が集まってくる。しかしその中心部にありながら、旅行者がほとんど立ち寄らない建物がある。それがデサンパラードス駅だ。

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アルマス広場のすぐ裏手にあるデサンパラードス駅
デサンパラードスとは「身寄りのない者、見捨てられた人々」という意味。かつてこの駅舎のすぐそばに存在し、その後移転したヌエストラ・セニョーラ・デ・ロス・デサンパラードス教会からその名を拝した。
しかし「見捨てられた」とはよく言ったもので、一般の人々に「駅」として利用されるのは年にわずか数回、この駅始発の旅客列車が運行される時だけだ。同駅を管轄するアンデス中央鉄道は普段貨物列車のみ運行、そのため駅弁も売られていなければ、旅情を誘う構内放送もない。旅人の目にふれる機会が少ないのも仕方ないと言えよう。

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観光用の高山列車は、アンデス方面が乾期の間だけ運行されている
旅行者は滅多に訪れないデサンパラードス駅だが、文学好きには大人気。というのも、構内には「ペルー文学の家」と名付けられたカルチャーセンターが設置されているからだ。ペルー人作家による講演会や子供向けのお話会など、ペルー文学を積極的に啓蒙している。また、ノーベル文学賞作家マリオ・バルガス・リョサの名を冠した図書館も併設されており、落ち着いた雰囲気の中で読書ができると評判だ。

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こんな図書館だったら、さぞ読書に集中できるだろう
この駅舎が完成したのは1912年。当時では珍しい鉄筋コンクリート製で、高い天井と白い柱、床の古びたタイルが100年以上の歴史を静かに物語っている。天井のステンドグラスから差し込む明るい陽射しと、優雅な曲線を描く門扉の影を眺めていると、古き良き時代に紛れ込んだような気持ちになるから不思議だ。

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アールヌーボー様式の優雅な曲線が美しい門扉
未来の文豪たちが集う駅、デサンパラードス。セントロの喧騒に疲れたら、ここでのんびり休憩してみてはいかがだろうか。お気に入りの本を持ち込んでもいいし、充実した蔵書の中から気になる一冊を選んでみるのもいいだろう。