2007年から京都造形芸術大学で文芸表現学科の教授として年に数回、京都に通うようになった辻仁成監督は、出会う場所と人に魅了され、京都という場所を自分の作品の舞台として意識するようになった。そして2013年、自身が作・演出・音楽を担当した音楽劇『醒めながら見る夢』の映画化実現によってそれは結実する。
主演は2011年の同名音楽劇に続いて、苦悩する優児を熱演した堂珍嘉邦。映画主演は本作が初めてとなる。
穏やかな愛で優児を包み込むヒロイン・亜紀を演じるのは、高梨臨。その妹・陽菜には、石橋杏奈。そんな陽菜に惹かれていく孤独な青年・文哉を演じたのが村井良大。今回は文哉を演じた村井良大にデビュー前から現在までの活動、そして本作の魅力について話を聞いた。
——まずは、デビュー前のお話しから聞かせてください。
村井:少年時代は、人を笑わせることばかり考えていましたね。お笑い番組をたくさん観ていたわけではないんですけど、家族や友達を笑わせることが、大好きでした。
中学時代は野球部で少し野球を……。でも、途中で飽きちゃって(笑)、それから美術部に入部しました。美術室で絵も描かずに遊んでましたけど(笑)。
もちろん絵を描くことは好きだったんですけど、何をしてもいい部だったので……。
——デビューのきっかけは?
村井:高校3年になって、まわりが進学を考えている中で、自分は大学や就職ということがピンと来なかったんです。なんか違うなって感じでした。それから、何をしたいのかを考えた時に、役者って面白いなって。どうせ一度の人生だったら、面白い仕事につきたいなと。それがきっかけで、雑誌のオーディションに応募しました。
——舞台『赤毛のアン』で、俳優デビューされたと……。
村井:高校3年の夏に現在のマネージャーと出会い、その舞台が9月後半に始まりました。経験もないまま、いきなり芝居をすることに。
——いきなり、大勢の観客の前で演技をされたと……。
村井:よくわからないまま演じてましたね。今、振り返っても、良かったのか悪かったのかさえわからない。でも、大勢の観客の前で演技する方が楽ですね。その時は東京国際フォーラムでの舞台でしたが、広い方が緊張しないんです。お客さんとの距離が近い方が緊張します。その後に、観客が15人という小劇場で演じましたが、お客さんとの距離が近く緊張しました。1mもないくらいの距離だったんです。僕にとっては、大舞台の方が緊張しません。
——テレビドラマ『風魔の小次郎』では、初出演かつ初主演でしたが、いかがでしたか?
村井:あまり実感はありませんでした。「ああそうなんだ」みたいな感覚で。いい意味で気負うこともなく。昔からそうなんですけど、主演だから脇役だからといって、テンションが変わるわけではないんですよ。監督の指示通りに演技をして、納得もしていただけていたので、楽しい現場でしたね。
——『仮面ライダーディケイド』では?
村井:子供のころに『仮面ライダークウガ』を観ていて、まさか自分がそのクウガになるとは思いもしませんでした。夢のようでしたね。そこで、初めてプレッシャーを感じました。歴史ある作品でもあるし、今までの仮面ライダーも出てくる内容だったので、役者が変わって「これは違うんじゃないの〜」と思われないために、いろいろと研究しながら演技しました。
——スーツアクターの人の演技がすごいと……。
村井:一度、スーツを着たまま演技をするシーンがあったんです。そのスーツが重く視界も狭く、倒れるとスーツの中って空洞があってその厚さのため、倒れた時に地面から体が浮いた状態になるので、起き上がるためには、すごく腹筋が必要になるんですよ。スーツアクターの人たちは普通に演技をしているのでびっくりしましたね。
——『戦国鍋TV 〜なんとなく歴史が学べる映像〜』では?
村井:笑ってゆっくり観ていただける番組というコンセプトだったので、楽しく観てもらえればという感じでしたね。
——すごく、お笑いのセンスがあるようにお見受けしましたが……。
村井:そうですかぁ〜。ありがとうございます。よく観ていたお笑い番組から、“間”とかがいつのまにか身についていたのかな? 『ダウンタウンのごっつええ感じ』はずっと観てました。
★それでは、映画『醒めながら見る夢』についてのお話を聞かせてください。
——辻監督との仕事は、音楽劇『醒めながら見る夢』、朗読劇『辻仁成 その後のふたり』に続いて今回の映画で3度目となりますが、村井さんから見て、辻監督とは?
村井:監督は常に人とモノを見る視点が違う人ですね。でも、違ってはいるんですけど、理由を聞くと納得ができるし、映像になると直球で届く。そういった感覚的なところがアーティストなんだなって思います。芝居に対して要求されることも、その時の生の感情を大切にされていて、作り物にはしたくないと。最初に自分の芝居を見ていただき、その後で、監督が意見やアドバイスをくださる。でも、最終的には「もうちょっと、自分で探ってみて」って感じで、任せてくれます。役者を信じてくださるので嬉しいし、がんばろうって気持ちになりますね。監
督となら、いろいろな化学反応が起きて面白いシーンが撮れるんだと、いつも感じていました。
——仕事以外での辻監督は?
村井:ふだんは、おっとりされてますね。人との交流が好きな方で「今、なにしてるの?」みたいな。お酒を飲みながら、たわいもない話しをしたり、仕事の時は芝居の話をしたりと。個を尊重してくれる方なので、押し付けたりとかもなく、人の話をじっくり聞いて「君は今、そういう感じなんだね〜」って。心地良いです。
——今回の主演の堂珍さんや高梨さんとは、ほとんど共演シーンがなかったと思いますが……。
村井:堂珍さんがクランクアップする日に、控え室が一緒で、その時にお話させていただきました。その前の音楽劇でご一緒させていただきましたが、堂珍さんはすごくフラットな方ですね。まったくトゲトゲしていないんですけど、丸くもないといった感じ。不思議な場所にいる方です。なんて表現していいかよくわからないんですけど……。自分の考えや個性を大事にされていて、そこで勝負している。尊敬できるところです。一緒に食事をする時には、芝居の話になります。「本番とかって緊張するもんなの?」みたいな素朴な質問をされたり……。今回の撮影前にも「よろしくね!」って電話をいただいて、その時に「俺、何を準備していけばいいかな?」って質問されて、とりあえず「セリフを憶えていけばいいんじゃないですか」って。堂珍さんはアーティストなので、映画の現場について素朴な質問になったんだと(笑)。
——高梨さんは?
村井:仮面ライダーの時に高梨さんとは共演させていただいたんですけど、あまりお話をしたことがなく、今回も一度しかお会いしていないんです。でも、高梨さんは、すごく自分を持っているんだけど、なるべくそれを隠している。僕は、そう感じるんです。控え室でも静かに台本を読んだり、無口でもないし、人見知りでもないし。なんだろこのマイペースさはって感じています。その場にいることに集中している人。不思議な女優さんですね。
——今回は陽菜に惹かれていく孤独な青年・文哉を演じましたが、陽菜役の石橋さんは?
村井:ふだんは、普通の女の子なんです。「今日は暑いですね〜」ってスタッフに話しかけたり、明るい感じなんですけど、本番になると急にスイッチが入って、女優さんだなって。彼女はオン・オフの切り替えが早いです。
——では、今回の村井さんの演技についてうかがいます。
映画全体を通して、とても静かな時の流れの中の演技だったのかと。プロダクションノートでは、すべての撮影が終わるまで笑うことは一切なかったと書いてありましたが、今回、演じられていかがでしたか?
村井:今回の文哉という役は無口で寡黙で人に心を開かないという人物だったんですけど、その部分が演じると難しく、多少は心を通わせないと芝居が成立しないんだなって思っていて、でもそれをシャットダウンするとなると、どうしようかと……。文哉という人物像の作りたかったところは、無表情ということではなくて、重いものを背負っている、そういうことを感じさせる“目”を演じたいなと。目の作り方に重点をおきました。笑わないで喋らなかったということは、実はその目を作りたかったということ。陽菜と出会ったことは、文哉の中では大きな出来事なんだけど、それが表に出ない。「この人はなにを考えているんだろう?」って僕の演技を観て思っていただけたら嬉しいですね。
——室内のシーンでは、ほとんど外光のみで、室内のライティングがなかったような印象でしたが、この演出は?
村井:今回の優児と文哉のシーンは、太陽が入っているけど暗い。自然光なのに重い。それを映画の中のコントラストとして監督は表現したかったんじゃないかと僕は思います。
——今回の映画と前回の音楽劇との違いは?
村井:前回の音楽劇の時には天使と悪魔がいて、僕は悪魔を演じました。今回は文哉というまったく違うキャラクター。悪魔の時は、狂言まわし的なセリフで謎を残していく、変な生き物だったんです。まったく違うキャラクターは、演じていて面白かったですね。
——村井さんの今後の目標は?
村井:自分の中では、目標は持たないようにしています。それよりも大事なことってたくさんあるような気がして、目指すべき道は自分だけで決められるものでもないので、まわりとコミュニケーションをとりながら仕事を楽しくできたらなと。今を大切にしないと、大切な未来もないのかなって。
——最後にこの映画の見どころを
村井:生きることは難しいけど、なにか新しく一歩踏み出せるような、勇気を与えられる作品になっていると思っています。この映画を観終わった後には、さわやかな気分になっていただけると。ぜひ、劇場でご覧ください。
■インタビュー写真
撮影:尾崎康元
スタイリング:吉田ナオキ
ヘアメイク:HAMA
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出演:堂珍嘉邦、高梨臨、石橋杏奈、村井良大/松岡充/高橋ひとみ
脚本・監督:辻仁成
制作・配給:キノフィルムズ
公開:5月17日(土)、新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー
©2014「醒めながら見る夢」製作委員会