殺人犯に「とらわれて」過ごした5日間……。『マイレージ、マイライフ 』、『JUNO/ジュノ 』でアカデミー賞作品賞と監督賞ノミネートを果たしたジェイソン・ライトマン監督が、「許されない愛」という禁断のテーマに挑む本作。かつて『マディソン郡の橋 』や『きみに読む物語 』にノックアウトされた女子たちに、必ずや同様の感動をもたらしてくれるだろう。
1987年、アメリカはニューハンプシャー州の田舎町。他人と上手く接することができず、家に引きこもりがちな母アデル(ケイト・ウィンスレット)と、それを健気に支えながらつましい生活を送る息子のヘンリー。月に1度の買い物のためにスーパーへ出かけた彼らは、ケガをした見知らぬ男性(ジョシュ・ブローリン)に脅され、自宅へと向かう……。
母役を演じるのは『タイタニック 』のケイト・ウィンスレット。こと「愛」に関する演技は群を抜いており、スーパーで男に出会った時にすでに、閉ざされた自分の世界がこれをきっかけに開けるのではないかという予感、また男が極悪人ではないことを直感し、あの程度の脅しで男の言いなりになったのではないか、と観る者のイメージを膨らませてくれる。だが、「閉ざされた心」の演じ方はさほどでもない。本物のヒッキーはあんなにまともに他人と受け答えできるはずもなく、その状態をウィンスレットが頑張って演じているということが伝わってくるだけだ。
一方、ジョシュ・ブローリンは完璧と言っていいだろう。元来、女子は誰かに「とらわれたい」という願望を持っている。流行りのカベドンもそうだし、「お前」呼ばわりされるとキュンとなるタイプだって存在する。手荒に扱われたいと願う一方で、本当に傷つけられたらイヤなものなのだし、また、ワイルドとは対極にある意外な一面を垣間見ると、もう完全にオチてしまう。その点、ブローリン演じるこの男は、手足を縛る縄の加減といい、料理が得意な点といい、まさに条件を満たしているのだ。そして、時系列を精密に計算した絶妙な演出により、この男が真の極悪ではないと明かされるその事実もまた、この男の紳士っぷりを一層際立たせてくれる。
原作は、『ライ麦畑の迷路を抜けて』でサリンジャーとの恋を暴露したジョイス・メイナード。おそらく本作も映画という表現形態の性質上、原作の方が登場人物の心理描写等においては勝っていることだろう、ということは容易に想像がつく。ここで原作を先に読んでから映画を見るか、または映画を見てから原作にするかという卵ニワトリ論争がまた始まるわけだが、こればっかりはなんとも言いようがない。ブローリンの魅力にノックアウトされたければ映画を、登場人物の心理を手に取るように知りたければ原作が先のほうがいいだろう。
『マディソン郡の橋』も『きみに読む物語』も、どちらも私は泣いたクチだ。本作も当然、号泣。だがこれは私だけではない。マスコミ試写のその会場では、複数の女性、そして男性すらも泣いていたのだ。
原作:ジョイス・メイナード『とらわれて夏』
監督・脚本:ジェイソン・ライトマン『マイレージ、マイライフ』 『JUNO/ジュノ』 『サンキュー・スモーキング』 『ヤング≒アダルト』
出演:ケイト・ウィンスレット 『愛を読むひと』 『タイタニック』 『エターナル・サンシャイン』、ジョシュ・ブローリン 『ノーカントリー』 『MIB3』 『トゥルー・グリット』、ガトリン・グリフィス 『チェンジリング』、トビー・マグワイア 『華麗なるギャツビー』 『スパイダーマン』シリーズ
配給:パラマウント ピクチャーズ
公開:5月1日(木) TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.torawarete.jp/
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