【駅員はつらいよ】「定期券初売り中」の思い出

消費増税、というよりも新年度を迎えて10日余りが過ぎた。そんな折りの平日、ずっと続いている光景が定期券売り場の行列である。3月末で定期券の期限切れとなる多くの人がいるなかに、4月1日からの新社会人が加わっての大行列。5日ほどでそれが緩和されたと思ったら、そこに登校初日を迎えた学生さんも参戦してさらにてんやわんやの様相だ。

これを見越して鉄道各社は「新規定期は開始初日の(原則)7日前から、継続定期は14日前から購入できます。なのでぜひ今月中の購入を」と3月頭からアナウンスを始めるのだがあまり効果なく……いや、あるんだろうな効果は。ありながらのこの混雑と言うべきなのだろう。かく言う私は3月中に継続定期を購入した。いや、実のところ毎月半ばの期限で、かつ自動機でチャッチャと継続できてしまうので混雑の影響はほとんどないと思われたが、「継続なら14日前」がギリギリ3月末に入ったので、そこで継続しておけば消費増税分から逃れられるというセコい判断での購入である(笑)。


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東急東横線コンコースにある東急線・東京メトロの定期券販売所。
行列は一服も買い求める人は今日も多数

ところできっぷの増税分、関東では「きっぷは10円単位、ICカードは1円単位」となった(ちなみに関西の多数はICカードの普及率を勘案し、一律10円単位を採用している)。かねてからICカードに利権の匂いをどことなく感じていた私はかたくなに「定期は磁気券、きっぷは現金購入」を貫いていたが、ここにきて悪の軍門(←そこまで言うか)に降り、『モバイルSuica』に1000円をチャージした。モバイルなら500円のデポジットも掛からないというところも含めて、これまたセコい判断である(笑)。

そんな今回は“定期券売り場行列”という駅員さんのおはなしを。

さわりは書いたことがあるのだが、アルバイト駅員時代の定期券売り場での行列経験は1月5日、6日であった。私自身が前年の4月には駅員ではなく、次は3月末で退職したので新社会人と学生さんが雪崩れ込んでくる最大の繁忙期は知らない。私の“新年初売り”などおそらくその10分の1ほどだと思うのだが、それでも混雑したという意味では経験の中では図抜けていちばんだった。なにせ「これで帰ったら暴動が起きかねないのでもうしばらくいます」と、2日とも残業させてもらったが、そんなのこの2日しかなかったのだから。

さて、当時の勤務駅・田町駅で定期券を買う方法は、みどりの窓口に並ぶ、自動指定席券売機(MVと呼ぶ)を操作して買う、定期券専用の自動機(ここでは自動機と呼ぶ)を操作して買う、この3点。いまでこそ近距離きっぷ用の券売機でも定期券の扱いがあるが、当時の田町にはまだない。なので、みどりの窓口2窓、MVと自動機がそれぞれ2台、これで対応する必要があった。


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東急線の券売機。こちらは定期券も購入できる機械。
定期券売り場の列をこちらに流すのも仕事のうち

ビジネスマンの駅である田町駅の17時以降、新年初出社を終えた帰宅客以外にドンドンと増える定期券を買うための人の列。いつもはあまり並ぶことのない自動機がやはり専用機だからかまず大行列となる。必ず有人対応してもらえるみどりの窓口がそれに続き、“新幹線とか特急のきっぷを取る機械”という認識のMVはそこそこ。

こうなると私はいちおうの持ち場であるMVを気にしつつ、自動機に並んでいるお客さんに向かい、待っている人の先頭から順番に声を掛けていく。
まず「経路はどこからどこまでか」。JR東日本の首都圏近郊だけや、私鉄線の経由がひとつだけなら問題ない。ただしふたつを跨ぐとMVも含み自動機では発券できない(※当時。以下同じ)ので、みどりの窓口へ向かってもらう。
さらに「お支払い方法」。現金もしくはクレジットカードが利用できるが、まれにブラックカードなぞを持っている方がいる。これも機械では発券できないので、それ持っている人なら電車じゃなくてハイヤーでしょ、なんてことを思いつつ、みどりの窓口へ。
さらには「学生さんで新規だったりします?」。通学定期は機械で継続は可能(新年度移行時は不可)だが、新規は通学証明書とともにみどりの窓口での購入となる(それ故に新年度の有人窓口が込む)。
この確認を終わるとて「もう少々お待ちください」で次の方……なのだが、MVの待ち人数によって自動機待ちの4人目あたりから「あの機械でもできますよ」と提案する。でも使ったことないので、という声には「なんのために私がいるんですか(笑)」と返しつつ……。


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JR東日本の自動指定席券売機(MV)。
特急券だけでなく定期券、回数券やおトクなきっぷ、後日利用の乗車券なども買えます

もちろん機械の前に着いたからといって不明な点があるお客さんは数多い。そして定期券関連だけではない、すみませーんの声に駆け出しながら、私が手伝いましょうと伝えておいたお客さんの番になって戻ったり……その繰り返しでもいっこうにお客さんが掃ける様子はなかなかない。そんな声掛け、誘導、操作案内に明け暮れた1月5日と6日、気が付いたときには私の定時18時を大きく回る20時半になっていた。

これまでもよく書いているけど、こんなのやり方なんも教えてくれないのよ、雇い主は(笑)。でも「松本のおかげでなんとかなった」と珍しくそんな話になっていたらしいこと、そしてなによりヒマより忙しいほうが楽しい、それが実感できた両日だったのをよく覚えている。定期券の行列を見るたびに思い出す、これもまた佳き思い出である。