オート・リクシャー、トゥクトゥク、バジャイ。アジアを旅したことのある人ならおわかりだろう、これらは「三輪タクシー」と呼ばれる乗り物だ。前一輪、後部二輪の三輪自動車を、ビニール製のほろもしくは自動車様のハードボディで覆ったもの。アジア特有の乗り物と紹介されがちだが、さにあらず。スペイン語で「モトタクシー」と呼ばれるこの乗り物は、実はここペルーでも大活躍なのだ。
モトタクシーは、首都リマの中心部など一部の乗り入れ禁止地域を除き、全国各地で日常的に利用されている。それもそのはず、ペルーは南米におけるモトタクシー発祥の地。1980年、本田技研工業がペルー現地法人を通じてアマゾン地方に導入したのがその第一号とされている。
アマゾンの街タラポトにて。暑い地方では、雨よけの屋根さえあればそれで充分モトタクシーの特徴は、なんといっても運賃の安さと小回りの良さだろう。料金は交渉制だが、一般タクシーの半額程度で利用できる。また華奢なボディの割に悪路に強く、馬力もあるため相当量の荷物を積むことが可能だ。
都市周辺ではおおむね乗車定員が守られているが、アマゾン地方では大人と子どもを合わせて5〜6人、一家総出で乗っていることもざらにある。黒い排ガスをまき散らしつつぐいぐいと坂を上っていく様は、見るからに頼もしい。そもそも陽射しが半端ではないアマゾンでは、徒歩での移動などある意味で自殺行為。安くて小回りが利いて過積載も辞さず、どんな狭い路地でも果敢に入っていくモトタクシーは、身近な公共交通機関として頼りになる存在なのだ。
アマゾンの街プカルパにて。大人3人と子供2人が乗り込んでいるところでこのモトタクシー、一体どれくらい儲かるのだろう。少し前にとある地方で見た売出し中の新車は、一台約6000ソレス(約21万6000円)だった。しかし貯蓄という概念の薄いペルー人にそれだけの大金をぽんと払える人はそう多くなく、普通はローンを組むことになる。その店が提示していた返済プランは「週当たり90.5ソレス(3258円)、104週払い」。週6日働いたとして、1日当たりの返済額は約15ソレス(540円)になる。
聞くところによると、モトタクシーの稼ぎは一日平均50〜60ソレス(1800〜2160円)ほどらしい。前述のローンやガソリン代を引くと、その日の儲けは25〜30ソレス(900〜1080円)しか残らない。容易に始められるためライバルも多く、どの町も供給過剰気味。モトタクシーを生業に家族を養うのは、そう簡単ではなさそうだ。
客足の途絶える日中など、涼やかな木陰でゴロゴロしているタクシスタ(運転手)をよく見かけるが、あれは怠けているのではなく、闇雲に走ってガソリン代を無駄にしないようにという彼らなりの“工夫”なのだろう。今まで「ずいぶんのん気なことだ」と眺めていたが、この業界実はなかなか厳しいオトコの戦場のようである。
アンデスのモルモット「クイ」のようなまるっこい姿から、「モトクイ」と呼ばれるタイプ。
冬の寒さが厳しい町では、モトクイのほうが人気だ