アメリカの大手ファストフード店にかかってきた、ただ一本の電話。受話器の向こうの声が命じるまま、店内で少女は全裸にされ、結果、企業が6億円の損害賠償の支払いを命じられる顛末となった、その驚愕の内容とは? 2004年にケンタッキー州で起きた実話をもとに練り上げられた本作は、タイムアウトN.Y.等、数々の有力カルチャー誌で昨年度ベスト映画のTOP10入りを果たし、2012年ナショナル・ボード・オブ・レビューでは女性店長を演じたアン・ダウドが助演女優賞に輝いた、心理スリラーの傑作だ。
アメリカ郊外のとあるファストフード店では、在庫管理のミスから商品が欠品するなど、スタッフたちはいつもより慌ただしい朝を迎えていた。全体がピリピリした空気の中、警察官を名乗る男から電話がかかってくる。その男は電話口の店長に向かい「お宅の女性店員に窃盗の疑いがかけられている」と告げる。驚いた店長は、男の言うままに女性店員の身体検査を始めるが……。
ミルグラム実験で証明されているように、我々人間は、権威者の命令ならばそれがどんなに残酷なことでも行なってしまうという一面を持っている。スタンフォード監獄実験を題材にした映画『es[エス] 』でも、これに似た心理が描かれている。本作のストーリーを下支えしているのは、我々のこの残酷な心理だ。
信じがたい実話がもとになっているとはいえ、本作はドキュメンタリーでもドキュメンタリータッチでもなく、ましてや奇をてらった作品でもない。女性店員は、プライベートでは何股もかけているような、いわゆるビッチなタイプ。監督は裸体の美しさも基準にして彼女を起用したのだろう。ボンキュッボン加減も抜群で、その美乳はストーリーに多大な説得力を与えている。対する女性店長といえば、フィアンセがいるにはいるが結婚にはなかなかこぎつけられない、もっさりした外見のオバサン。会社の利益や客へのサービスよりも、実は自分の出世のほうを大事に思っているイタい社員。冒頭、絶妙なセリフと描写で2人を対比させ、女性店員の“軽さ”と店長の“嫉妬”や“保身”という下地を作り上げる。そうした伏線をさりげなく配し、それを丁寧に丁寧に回収する……映画としての王道を踏襲し、抜群のエンターテイメント作品に仕上げているのだ。
監督・脚本:クレイグ・ゾベル
出演:アン・ダウド/ドリーマ・ウォーカー/パット・ヒーリー/ビル・キャンプ
公開:6月29日(土)、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.fukuju-shinri.com
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