昨年末のこと、当コーナーで「大阪市営地下鉄の御堂筋線と直通している『北大阪急行』は初乗り運賃が日本一安い」と紹介した。
現在、唯一の運転路線である『北大阪急行南北線』は区間4駅どこから乗っても初乗り運賃80円(大人)であり、起終点の江坂―千里中央まで完全制覇しても120円。大阪の大動脈である御堂筋線という“ドル箱”との直結路線で、かつ大手私鉄・阪急電鉄の100%子会社だからこそできる運賃設定と言えるだろう。
ところが。
その後のある日のこと、北大阪急行と同じく関西方面に住んでいる方からこんな指摘をいただいた。
「80円なんて高すぎる。『運賃無料』を掲げている鉄道がある」
運賃無料……? それはお金持ちの好事家が家の庭にミニSLかなんかを敷いて、それにタダで乗せてあげてたりする話では……と思いきや、国から許認可を受けているれっきとした鉄道路線だという。
情報によれば京都にあるというその鉄道、探索してみると……ありました。
鞍馬山鋼索鉄道
こちらが「鞍馬山鋼索鉄道」。
車両には源義経=牛若丸にちなんで「牛若號」との名がこちらが運賃無料の鉄道会社だった。ちなみに鋼索鉄道とは「ケーブルカー」のことである。
鞍馬山鋼索鉄道は、“牛若丸”こと源義経が預けられた京都の鞍馬山にある鞍馬寺への参詣のために敷かれているケーブルカーで、鉄道や索道(ロープウェイなど)事業を管轄する鉄道事業法の認可を受けている鉄道路線。比叡電鉄鞍馬線の鞍馬駅から目の前の仁王門のところにケーブルカーの「山門駅」があり、そこから本堂(金堂)の途中にある多宝塔にある「多宝塔駅」の二駅で運営されている。営業距離は191mだ。
こちらが「山門駅」の入口。
普明殿という建物の中にあるご想像の通りかと思うが、鞍馬寺への参詣ルートとして仁王門から多宝塔、そして本堂へと向かうための参道がもちろん存在している。ただ仁王門から本堂へは全長で1キロ、標高差160メートルほどの山道となっていることから、高齢者では徒歩だけでは参詣が難しい人向けの路線として整備されたというわけだ。それ故、徒歩で参詣が可能な人には「自然の中を歩いて参拝してこそ、鞍馬寺の本尊であり、自然の力の根源である『尊天』をより強く感じることができる」として、ケーブルカーではなく参道を歩いての参詣を事業者側はオススメしている。
ん、ずいぶん余計なお世話を言う鉄道会社だな、そう思ったあなたは正しい。実はこの鞍馬山鋼索鉄道を運営するのは「宗教法人鞍馬寺」であり、当の鞍馬寺が運営しているのだ(この一路線、191メートルしか営業していないので、日本でいちばん営業距離が短い事業者だったりもする)。ちなみに鉄道事業法で認可されている鉄道で宗教法人が運営しているのは日本で唯一ここだけであり、お寺さんの運営ということで駅員さんもお坊さん(お寺の職員さん)である。
なるほど、お寺さんの参拝なら本堂まで歩いて行ければそれに越したことはないが、徒歩での参詣が難しい方々だけでなく、ピンピンしている健脚家だって同じように“100円のお布施”で片道乗車ができる。1時間に4本、わずか2分の乗車ではあるが、その乗り心地を楽しんでいただきたい。
こちらが鞍馬寺の目的地、本殿金堂。
「多宝塔駅」から徒歩でさらに500メートルほどん、無料じゃなくて100円じゃん、そう思ったあなたは正しい。このケーブルカー、運賃はたしかに無料だが、乗るためには鞍馬寺全体の維持などのために100円のお布施を支払わなければならない。
運賃は無料だが、あくまでお布施が100円。
宗教法人だとお布施ならば非課税では……そんなことも頭に浮かんだ今日このごろである。ああ、この煩悩を払いに鞍馬山まで鞍馬山鋼索鉄道、乗りに行ってみるか。