赤岳 – 2

ストックにもだんだん馴れてきた。
パイネのレディースヤッケもパンツも、なんだか黒だのグレーだのだから、せめてストックはピンクにした。

赤岳鉱泉まではノーアイゼン。時折凍結した路面にてこずったりもするが、スットクがあるとバランスが取れて、すこぶる塩梅がよい。

行者小屋からはアイゼンをつけて、ストックをピッケルに持ち替えて行く。
きつくない、ということは未だかつてないが、それでも登り始めて30分で敗退した鹿島槍の時の「とんでもなくダメ~」感はなく、前と一定の間隔を保ちながら行けることが、ことのほか嬉しい。


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と言っていられるのも束の間、地蔵尾根の急登はきつい。通う登山者がそこそこあるらしく、しっかりトレースがあるのが、せめてもの救い。
なにより、辺りの雪景色の素晴らしいこと!
「なぜ山に登る?」の問いに名だたるアルピニストが様々に答えているが、「この光景に胸を震わせるために」は相当、上位にランキングされるに違いない。

雪をまとった枝々が雪面に影を落とす。キンと緊張した空気に咲くあでやかな冬の華だ。樹氷の白い樹々の間からは雪を頂いた山並が透けて見える。そそり立つ山々の頭上にはさらに高く冬晴れの青空がすがすがと広がる。
ただ黙って見とれて、ため息をつく。


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後続を待つ数分に、自然の造詣に目を奪われ、シャッターが切れることのなんと幸運!
なんとか、きちんとパーティーに足並みをそろえ、ついて行けてこそ、と思えばまた一段と幸福感もひとしお。アンクル・ウェイト、電車待ち、乗車中の爪先立ち、3本指つり革下がりの成果がはやあったか?!
内心ホクホク!

急登を乗り越すと今度は両側が削ぎ落ちた「ナイフリッジ」。これが雪道ともなると、ザイルでつながっていても相当に怖い。
けつまずいて、あらぬ方へ踏み外せば落ちる。落ちればどこまでも落ちる。1人落ちれば、どこまで影響を及ぼすかなど考えもつかない。
もう「1歩ずつ進みさえすれば、そのうち着く」それだけを頼りに黙々歩く。数10分が何時間にも思える。


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小屋・展望荘着16時ごろ。なんだかだで4時間の行程となった。
山々には、そろそろ夕暮れが訪れようとしている。夕日に映えて薄化粧したような大同心が懐を開いて向かえ入れてくれている。
地蔵の頭へ向かって歩いてきた稜線がはっきり見て取れる。よくもまあ、あの削ぎ落ちたナイフリッジを渡ってきたもんだと、なんだか自分に感動したり…

夕食時間を待つ間から既に始まった飲みは夕食後も続く。
シャンペンだのワインだの、まあ、お酒の旨いこと!