ハイチの妙

ハイチといえば夏の夜に聴いて楽しいメランゲ音楽なんかだけど、今回はそれではない。「配置」。劇場・ホールでの席の位置のこと。つねづね疑問に思っていることをちょっとだけ書かせてもらうことにしました。

このところのコンサート等であまりよい席に恵まれないのはたしかに困ったことで、前の方ではあるのだけれど「右端」もしくは「左端」でだいたいが巨大スピーカーの前。テデスキ・トラックスもクラプトン=ウインウッドも「前の端っこ」だった。
スピーカーと座席との距離がそう密着しているわけではないので、昔はその音量のせいでよく経験したコンサート終了後「耳が蓋(ふた)がったようになる」ような症状はないけれど、それでも見づらいことに変わりはない。ひどいときなどはステージの上にいるミュージシャンの一部が、ライブ終了まで見えないことだってある。顔すらわからないくらいです。

その昔、僕がコンサートに足を運びはじめたころはどんなプレイガイドにも座席表があって、それを見ながら自分が座る席を選ぶことができた。「少し後ろだけど真ん中ならまぁいいか」あるいは「席は最悪だけどステージに近い方がいい!」なんていいながらチケットを買う。それが普通でした。
今はチケット販売のシステム自体がネット(ブラックボックス)化しているのでそれができない。チケットが郵便局の配達、あるいはコンビニでの出力で手元に来るまで自分がどこに座るかがわからないんですね。届いた切符の番号と座席表を見比べての一喜一憂、まぁそれもギャンブルの一種と(ムリヤリ)楽しむこともできるし、だいいち最低でも本題である音楽は楽しめるので、とりあえずいい(よくないけど)としましょう。問題は歌舞伎である。

東京で常打ちしている劇場(特に名を秘す)。三階・下手(=しもて。舞台に向かって左をこう言います。右が上手=かみて)の袖の席に座ると花道がまったく見えない。乗り出しても見えない。「声はすれども姿は見えず」なんですね。で、小屋側はどうするか。「花道をご覧になれないお客様のために」とモニターが設置されているんであります。あれ、どうなんですか。入場料を払って「生」を見に来ているお客に対して、見えないからってテレビのモニターを見せるのってなにか違ってませんかね。
小屋の構造上、見えないことは初めからわかっていたでしょう。設計するに際してたとえば極端に言えば「逆扇状」などにすれば、少なくとも「舞台の一部が見えないエリア」は解消できたはずです。それでもそのデザインを敢行したのは「経済効率」? 「収容人数」? よくはわかりませんが結果としてこういうことになっている。浅学にして海外の小屋でこういうことがあるかどうかは知らないけれど、どうにも腑に落ちないんであります。

とはいえ歌舞伎の切符は席を選んで購入するので「自分がモニターを通してみることになる」のは承知の助だから、百歩譲ってこのモニターの存在は認めたとしましょう。でもコレは言いたい。それならモニターはすぐに切るな、と。
実はこの席、花道だけでなく舞台下手の1/4くらいが見えない。役者さんが花道から本舞台に入った段階ですぐにモニターを切られるとなにをやっているのかわからないんですね。本舞台の下手でアレコレ芝居をしている声、あるいは所作の音だけを聴きながら、ボンヤリ虚空を見ているのって虚しいもんなんです。関係各位の真摯なる対応をお願いしておきますが。


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まぁそれとは別に「席の運」ってたしかにあります。映画館、あるいは寄席の「全席自由」で「ここがよかれ」と思って座った席の前の列。着いたときには空いていたのに開演直前にお客が着席、そのアタマが「パパイヤ鈴木めいたアフロヘアだった」あるいは「上にちょんまげを結った女性だった」場合、はたまた最初はきちんと見物していたものの、睡魔に襲われたか「舟」をこぎ始めて常に頭が動くようになってしまったおじさんの場合など、その舞台が終わるまで「苦虫噛みつぶしたような顔での見物」になること必至です。
なに言ってんだ、それもこれもライブのハプニングとして楽しめばいいじゃないか! ……というような達観した心持ちになれればいいんでしょうが、まだまだ修行が足りません。いやはや精進精進。

ところで全17列が「いろは」の順に配置されている上野鈴本演芸場の客席。「い」で始まって「れ」で終わるという座席表を見ながら、柳家喬太郎師匠に

「ここの小屋、席が『色』で始まって『タレ』でおわるんだよね」

と言ったらイヤな顔をされたのはホントの話。噺家さんて、「地口落ち」があまりお好みじゃないんだそうです(汗)。
ともあれ席の位置、舞台の様子、終演後の酒……すべてが上手く行ってこその楽しい「酔っぱライ部」。今回は全体のバランスがたいへんよろしい「魚介のワイン蒸」でGO。

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【Panjaめも】
●メランゲ音楽。こんな感じ
窓を開け放った部屋でフローズン・ダイキリかなにかを手にこれ。いいでしょう?

●「符牒」についてのwiki
下の方にある「噺家の符牒」に「タレ」が出てきます

●座席表も載っている上野鈴本演芸場のHP
6月中席・昼の部へはこちらを出力してご持参されますと割引料金にてご入場いただけます