今から30年ほど前のことです。多くの人々がある塔の魔力に魅せられたことがありました。
その塔は全60階。頂上までの直通エレベーターなんて便利なものはなく、そのうえ各フロアは複雑な迷路になっていて、敵や罠などさまざまな困難が待ち構えていました。
それでも我々は、その塔を支配する恐ろしい悪魔を倒し、奪われた宝と愛する人を取り戻すという使命を課せられ、けなげに塔の攻略に挑んでいったのです……。
雨に煙るある日の東京スカイツリーを見上げると、どことなく「あの塔」に似ていなくもないような……「30年前」、「60階建ての塔」でピンときた人もいるはず。その塔の名前は『ドルアーガの塔』。1984年に発表され、ゲームセンターやファミコンで大ブームを巻き起こしたゲームのタイトルです。
ただし、ムコ殿が挑んだドルアーガの塔は、ブラウン管の中ではなく本の中にそびえていました。小説でもマンガでもない、その当時一世を風靡した「ゲームブック」の中に。
ゲームブックっていうのは、数字の小見出しがふられた数百ものシーンからなる冒険小説のこと。各シーンの最後で、写真のように選択肢の中から自らの行動を決めて読み進めます。
必要なものは本とサイコロ、あとは鉛筆と消しゴムだけ。それさえ揃っていればいつでもどこでもプレーできるのですから、エコの要素も先取りしていたんですね。
そうしてページをめくり、出くわした敵とサイコロの目で戦ったり、自分の体力値の増減や獲得したアイテムなんかを付属のアドベンチャーシートに記入したり。今思うとアナログの極みですね、これ。
右・挿絵でそのシルエットをわずかに見ることができたドルアーガの塔。冒険はまだ始まったばかりです
左・サイコロは東急ハンズで新調、それととっておきのシャーペン、鳩サブレ豊島屋オリジナル勇ましい流鏑馬シャーペンでシリーズ第1作『悪魔に魅せられし者』に挑戦中そんなゲームブックに、小学生時代のムコ殿は毎月のお小遣いをつぎこんでおりました。いくつもの出版社から毎月新作が登場していた時代だったんです。
なかでもドルアーガの塔は20階ずつの全3作からなる長編で、フロアごとにきちんと地図を書いていかないと迷ってしまうという緻密さも若き冒険者たちのモチベーションをアゲてくれましたっけ。
じつはこのゲームブック、ドルアーガ以下数タイトルが30年の時を経て随時復刻中! もちろんムコ殿も購入して、当時のままの挿絵を懐かしく眺めながら、なんだかもったいなくてちびちびとプレイしております。
復刻版はシリーズ全3作のうち2012年5月現在では第2作までリリース済み。塔の呪縛から解き放たれるためにも、ムコ殿は今宵もサイコロ片手に最上階をめざします。