その昔「映画館から出てくる客が映画に影響を受けている」とかいう描写がありました。それが高倉健や鶴田浩二主演の任侠映画だったりすると、耳に片手を当てて「不器用ですから」と言ってみたりするアレ(わからない人はそこらにいる50過ぎのおじさんに聞いてみよう)です。
まあそんな類いでなくともブルース・リーの映画を見てヌンチャクを買ってみたり、西部劇に感化されてモデルガンの早撃ちの練習をしたりした人も少なからずいました。映画の影響、昔はとても強かったんです。
その昔、「ラストワルツ」という音楽映画を見たあと、ひとり渋谷にあったなじみのBarへ行き、「バーボンのロックにビールのチェイサー……」なんてことをしたことがありました。映画に感動して黙っていま見てきた音楽を反芻しつつその気分に酔う……そんな気分になっていたんですね。
店主に「モリモトどしたの? 今日はずいぶん渋いじゃない」なんて言われたりして。ところがそうして「渋く」呑んでいたのは初めだけ。そのうちベロベロに酔っぱらって馬鹿なことをベラベラ喋る「いつもの展開」に落ち着いた。翌日つくづく「ああオレって渋くなれない」と思ったものでした。
とはいえライブや芝居ばかりじゃない、「客席に身を置いて目の前に広がる『異世界』と交歓する」という点では映画だって心に響くそのそのバイブレーションが充分に感じられるイベントであります。いや、むしろ暗闇の中で対峙する分、それはより大きいかもしれません。
さて先日「The Ballad Of Mott The Hoople(邦題:すべての若き野郎ども)」という映画をモーニング・ショウで見てきました。これはモット・ザ・フープルという1970年代に活躍したバンドの結成から解散までを証言を交えて克明に描いたドキュメンタリー映画で、当日の夜に地元で知人と呑む約束をしていたので「その日はグラムなオレかもしれない」などと言っていたものでした。ところが。
ぜんぜんそうでなかったですね。音楽や周辺の時代状況、あるいはそのコスチュームから後の「ヴィジュアル系」につながるといわれるグラム・ロックのカテゴリーに入ると思っていたバンドはとても「骨太」で、ライブを中心に活動するという点では、どちらかといえばパンクの源流といってもいい(個人的感想です)のではないかというくらい今までそのバンドに持っていた印象とはかけ離れたものでした。
結果「グラムなオレ」にはならなかった。仕事場へ戻ってフロントマンであるイアン・ハンターの曲を大きな音でかけながら仕事、たいへん捗りました。
だいたいからしてあまり酒が出てこないんですよ。出てくるのはバンドとして売れると「どこへ行ってもシャンパンが供されるようになる」なんて話だけ。バンドの結成に深く関わるプロデューサー、ガイ・スティーブンス氏が後にドラッグで命を落とすところからみてもいわゆる「ロックの三種の神器(?)」である「セックス(中性的な衣裳と化粧)・ドラッグ・ロックンロール」は成立するかもしれないけれど、お酒は出てこない。自然と当夜の居酒屋は「焼き鳥で日本酒」になりました。おいしかったからいいんですけど。
ところでこの映画、そのバンドが活動していた当時から音楽を聴き続けている僕にとってはスプーキー・トゥースやらミック・ロンソン(故人)やら、たいへん懐かしい名前がたくさん出てきて楽しかったわけですが、なかでも驚いたのがこの人の名前でした。Lynsey de Paul(リンジー・ディ・ポール! 恋のウー・アイ・ドゥー!)。リンジーとモット。いやーぜんぜんつながらない。びっくりだ。
まったくつながらない二者がいきなり出会う驚きと楽しさ。映画ってホントにいいもんですね! そんな今回のレシピはこちらの「フランスパンの味噌トースト」。
というわけでまた次回。
【Panjaめも】
●「The Ballad Of Mott The Hoople(邦題:すべての若き野郎ども)」
渋谷・桜丘のシアターNで6月8日まで公開中です
●リンジー・ディ・ポール「恋のウー・アイ・ドゥー」
曲を聴くとごぞんじの方もいらっしゃるのでは?
しかし今聴くとフィル・スペクターですね、こりゃ