例えばエベレストに代表される8000m峰登山ドキュメントフィルムなどを観たときに、登山家の偉業に目を見張るのは必定として、ふと「ここまで臨場感のある絵を撮っているのは一体、どんな人なんだろう?」と首を傾げた覚えが一度ならずあるだろう。
昭和30年代に「山岳カメラマン」という言葉を初めて使い始め、それをひとつの「職域」として世に定着させた人物こそが白簱氏。本著はその半生の記録であり、氏の目に映った「山」「登山」を核とした「時代」や「人」が丁寧に語られてもいる。
野兎さえ巣穴に身を潜める悪天候をついて、カモシカでさえ尻込みするような雪崖を下る。しかも、時には40キロを超える撮影機材を背負って。なまじな想像をはるかに超えた過酷な登山をものともしない、登山家より登山家なありよう。読んでいても手に汗を握る。
であればこそ、崇高な山シーン作品の数々に、我々もまた、言い得ぬ感動に心震わせることができるのだ、と納得する。
「山が好き。だからこそ、山に行くことと生業うことを一致させたいと考えた」と氏は言うが、「たとえば山行でルートが二通りあれば、必ず難しい道を選びたい」自らに妥協を許さない立ち位置に立って、ワンショットといえども限りを尽くして撮る。作品群はみな、氏の超人技の賜物なのだ。
「日本高山植物保護協会会長」「山岳写真の会『白い峰』会長」「日本山岳会終身会員」「日本写真家協会会員」…。
御年79歳。多忙を極める氏。
「ああね、いま八ヶ岳にいるのよ」
なかなかつかまらない。
作者名:白籏 史朗
ジャンル:エッセイ
出版:新日本出版社
※VIVA ASOBIST:「Vol.64 白簱史朗」は近日公開