このシリーズ、なかなか謎めいている。
謎その1
隠蔽捜査1ともいうべきは『隠蔽捜査』とだけ表題され、『果断』から、副題として隠蔽捜査2となり『疑心』が3は順当として、『初陣』は3.5で『転迷』が4になる。なぜに3.5か?
時系列でいうと3.5は1以前を含み、1、2間を交え3の端をとらえ、3の頭をちょい出たりする。ということは、すなわち2と3の間に3.5を挟んで読み進めるが最適と思われる。
シリーズは警察キャリアの2人が主たる登場人物なのだが、オムニバスで構成される3.5だけが描かれている視点が違っている。シリーズを通しておおむねメインキャストを張っている登場人物の視点で描かれているのだが、3.5だけが対抗キャストの視点で描かれている。
まあね、著者がなぜにそんなややこしいことをしたかは、読んでみんさい。
もちろんシリーズは揃えてから読み始めることを薦めする。
謎その2
シリーズ第一作の『隠蔽捜査』だけなぜ『果断』とか『疑心』に準ずるような内容表現の表題がついていないのか?
それについて、いろいろと妄想してみるのもおもしろい。例えば……
「著者は最初からシリーズ化を目論んではいなかった。書いてみたら思いのほか出来栄えがよく、同じ登場人物の設定で重ねて続きを書きたくなった」
とか。妄想しながら「うん、これは案外的を射ているかもしれん」などひとりごちする。
謎その3
ほとんど邪心に近いので言うなら、同著者作の『同期』との関連性が極めて怪しい。書かれた時系列がどうだかはおいといたとして、ぷんぷんと匂うんである。『同期』は警察への入所が同期なんだが、「隠蔽シリーズ」では小学校時代の同級生で、その時分の互いの互いへの様々な思惑、思い込みがストーリーに面白い味付けをしている。
どっちが先かは別にして2作は「同期」という関係性が想起する概念に、わずかに照射位置を違がえてフォーカスしている。
回りくどい言い方で面倒くさいね。
つまりね、『同期』が下敷きとなって『隠蔽捜査』が生まれたのじゃないかと仮説してみたんだが、検証する段になって、あまりにも同著者の作品数が夥しくて、明確な解にたどり着けなかったのであるよ。
ってなことをごたごた、あれこれ思いめぐらして楽しめちゃうほどおもしろいシリーズだってことが言いたい。
ともすると「キャリア」って「族」が現場のたんこぶみたいな扱いが多い警察小説とは対極の設定もいたっておもしろい。
ただ……
文句がひとつある。
なぜ最初の2冊だけ文庫化されているのに、他は単行本のままなのよ。おかげで、かさばって重い単行本1冊はウェストポーチ、1冊はスーツケースに入れてなんて「旅行のお伴」にはちいと都合が悪いやね。
作者名:今野 敏
ジャンル:警察ミステリー
出版:新潮社
※5冊とも