洋菓子店コアンドル

新年早々からたびたび『白夜行』の紹介をして来ましたが、その深川栄洋監督の最新作が続けて登場です。

東京で評判の洋菓子店“パティスリー・コアンドル”は、今日もたくさんの笑顔で溢れている。厨房では、オーナーでシェフパティシエの依子(演ずる戸田恵子は『60歳のラブレター(09年)』、『白夜行』に続き深川作品3作目)と夫ジュリアン(ネイサン・バーグ)、そしてマリコ(江口のりこ)の三人がテキパキと働いている。時折、その店を訪れる十村遼太郎(江口洋介)は、洋菓子専門学校の講師をしながら、ガイドブックも複数出版しているスイーツ評論家。ある日のこと、コアンドルに大きな荷物を持ったひとりの女性が店を訪れる。鹿児島の方言丸出しの娘・臼場なつめ(蒼井優)は、東京でパティシエ修業中の恋人・海千尋(尾上寛之)を探してこの店に辿り着いた……。

今、この不況の世の中で停滞している大人たちには、以前の自分がなんの根拠もないまま自信に満ちあふれ、無我夢中で夢に向かって突っ走っていたころを思い出させ、また、これから自分の夢を探そうとしている若い人には、間違ってもいい、失敗してもいい、それは夢を叶えるためのささいなことだと感じさせる――すべての人に一歩を踏み出す勇気と元気をあたえてくれる、そんな作品になっています。また、劇中に登場する宝石のようなケーキはどれも美しい。さぞかし美味しいであろうそのケーキを見ているだけでため息がでる。そしてラストに登場する、私が今までに見たこともないケーキは人々を幸わせにする秘密をもっている(スイーツ本『洋菓子店コアンドルの幸せレシピ』に詳しく紹介されています)。

鹿児島弁で破天荒な一歩も譲らないキラキラとした情熱的な娘・なつめを蒼井優が巧みに演じれば、十村のもの静かな役を江口洋介がベテランの技で演じる、あまりにも純粋ななつめの行動から十村の心に目覚めたものはなんなのか? 職人という世界の大変さ、どれだけの修行をすれば一人前のパティシエになれるのか? その先にある喜びを少しでも感じた時、前に進むことが出来るのだろう。なつめと、なつめが出会った人々の挫折と再生をさわやかなタッチで描いた名作だ。

映画を観終わった後、誰か大切な人とケーキを食べに行きたくなってしまう……ケーキって本当に人を幸福にする食べ物なんだなって、そんなことを思ってしまう、こころ暖まる映画です。

最後に、この劇中の洋菓子店、ロケ地が以前、私が事務所にしていたマンションのほぼ向いの建物なんですね。町並みも見覚えのある景色ばかりです。映画鑑賞後みなさんの中にもきっと見覚えあるって方がたくさんいらっしゃるかと思います。おっと、話が少々脱線してしまいましたが、そういった点も印象に残りました。

バレンタインシーズンに大切な人と出かけてみては、いかがですか?