劔岳 点の記

美しさも厳しさも、すべてがここにある。

明治39年。「陸軍の威信にかけて必ずや目的を果たせ」という命のもと、日本地図最後の空白地点、劔岳への初登頂と測量に向けた下見のため、陸軍陸地測量部の柴崎芳太郎(浅野忠信)は富山へと向かう。案内人の宇治長次郎(香川照之)と劔岳に入った柴崎だが、あまりの険しさに登頂への手掛かりすら掴めずに下山する。翌明治40年、総勢7名で劔岳周辺に三角点を設置し、ついに登頂へと臨む。同じころ、陸軍のライバルとも目される日本山岳会(仲村トオルら)の面々も劔岳を目指していた…。

なにより、その映像美に圧倒される。まるで山の神々から祝福されているように、雲海に沈む夕日のような何十年に一度というほどの景色が、幾度となく撮影隊の前に姿を現したという。
そして厳しさ。「自然は美しい」という言葉は、自分の身が安全な場に置かれているときにのみ発せられる言葉にすぎない。自然とはまるで、野生動物のようだ。ひとたび自然が牙をむいたとき、今までおとなしく人間たちを癒してくれていたそれは、凶暴にも我々に襲い掛かる。そこには善も悪もない。ただその本能をむき出しにしているに過ぎないのだ。何を隠そう雪国出身である私も、南の地方の人々が雪を見て「綺麗」などと言おうものなら無性に腹が立ったものだ。たしかに綺麗かもしれないが、その脅威は綺麗なんて悠長に言っていられるレベルを超えている。とにかく、寒くて辛くて苦しいのだ。大変なのだ。
だが、それこそが自然。そしてそれこそが人生。酸いも甘いもすべてを内包しているからこそ、その甘みは我々に多大な喜びをもたらしてくれる。

ど派手なアクションシーンも、ときめくようなラブシーンもない。役者たちが、恐らくは“素”で自然に立ち向かう地道な姿、そして新田次郎原作による同名小説の珠玉の台詞たち。エコや健康への意識が高まっている昨今だが、それと相まって今年は山登りが流行るのではないか。だが、一過性のブームで終わってほしくはない。荘厳な荘厳な映画なのだから。

■木村大作監督のインタビューはこちら!

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劔岳 点の記(文庫)
監督、キャストら記者会見!
原作:新田次郎『劔岳 点の記』
監督:木村大作
脚本:木村大作/菊池淳夫/宮村敏正
出演:浅野忠信 /香川照之 /松田龍平/宮崎あおい/仲村トオル/小澤征悦/井川比佐志/國村隼/夏八木勲/役所広司
配給:東映
ジャンル:邦画
公式サイト:http://www.tsurugidake.jp/

© 2009『劔岳 点の記』製作委員会