やなぎやファームの12ヵ月
柳谷順尚さん、悠子さん。実をつけ始めたトマトを前に
雪景色のビニールハウス
屈斜路湖の氷丘脈
発芽後本葉が揃ったトマト。定植も間近か
やなぎやファーム周辺、そこここの林下にフクジュソウの群生
トマトの黄色い花と青い実でハウスはすっかりにぎやかになります
完熟に近い状態で収穫します
空と緑が溶け合う地平線がどこまでもつづく広大な北海道の大地。そのスケールの大きさと自然の豊かさには目をみはるばかりです。やなぎやファームの主、柳谷順尚さんも初めて訪れた北の大地にすっかり魅せられ、弟子屈町に新規就農者のための研修制度があると聞いて、迷うことなく移り住んできたのです。
「何かゼロから生み出す、自分の手で命をはぐくむ、そんな仕事がしたい」2年間の研修期間は順尚さんにとっては発見の連続でした。カルデラ台地の火山灰地で1日の寒暖の差が大きい環境は、実はトマトの原産地アンデスの高地に似てはいますが、余りにもの厳しい自然の中で畑作文化が育ちにくい一面もありました。「研修期間には思い切った冒険的な試みができたし、発想を実行に移してみることもできました」地域に根深い既成概念にとらわれなかったからこそ生まれた発想を生かそうと努力した結果、今は「日本一旨いトマト創りを目指す」と順尚さんは胸を張ります。
「短い畑作期間の前後は雪に閉ざされた世界です」その「厳しい環境だからこそ」可能な野菜作り、という発想の逆転です。
10月
10月の声を聴くころ、屈斜路湖のほとり弟子屈町には、早々と白い雪が舞い始めます。長い長い冬の到来です。平均積雪量1メートルほど。降雪量はさほどではありませんが、国内有数の低温地帯。1月、2月ともなれば、零下25度を下回ることも珍しくはなく、強風と相まっての雪になるとブリザードで体感気温は文字通り極寒となります。屈斜路湖は完全氷結し、氷の膨張と収縮によって起こる氷丘脈は長野県諏訪湖の「御神渡り」を凌ぐスケール。長さ1km、高さ2mに及ぶものさえ出現すると言います。
その頃、ハウスのビニールは外されています。ハウス内の土は雪、風や低温にさらされ地表から1メートルは凍ってしまいます。凍土の上にさらに雪でおおわれた大地は完全に眠りにつき、長い眠りの間に害虫は死に絶え、病気の原因なども排除されます。自然条件が殺菌してくれるのです。
2月
周囲はまだまだ冬の眠りのさなか、2月の10日前後にやなぎやファームではトマトの種まきが始まります。他に先駆けて1か月ほど早い6月の出荷を迎えるためです。当然外気温は平均零下、ほっておくとビニールが2重に張られたハウスの内側も零下20度以下になってしまい、育苗環境が維持できません。ジェットヒータで加温してハウス内の温度を管理します。
3月
ところが温めてばかりでは、定植されたトマトの苗は丈夫に育たないばかりか、美味しい実をつけてはくれません。1日温めたら翌日はビニールを開けて寒い風を入れる。その寒暖の差が適度のストレスとなって、ギュッと締まった甘みを引き出してくれるのです。野菜を育てることが難しい自然環境、やなぎやファームはそんな逆境からこのノウハウを学び取りました。
5月
エゾヤマザクラが満開になり、林下にはフクジュソウが群れて咲き、屈斜路湖畔でミズバショウやエゾエンゴサクが人の目を和ませてくれるようになる5月、ハウス内ではトマトがたくさん花とともに青い実をつけ始めます。メロンの苗も定植が終わり、ハウス内は活気を帯びてきます。
6月
中旬過ぎまでは、どうかすると遅霜が降りたりすることもありますが「カッコウが鳴いたら種をまけ」は、このあたりの農家さんのジンクスだそうです。5月半ばに種まきしたトウモロコシが10日ほど経った6月初旬、ハウスの並びの農地で元気に発芽します。すくすく育ったトマトもこの月の中旬ごろには出荷が始まります。
7月〜9月
やなぎやファームでは収穫の最盛期を迎え、出荷作業で毎日大忙しです。ミニトマトは6月の10日過ぎから9月中旬まで。トマトは6月20日過ぎから9月の半ば。メロンは8月の15日過ぎから9月初頭まで、とうもろこしは8月末から出荷されます。ヤーコンは10月20日ごろが収穫のめど。寒締めほうれん草は11月中旬から年内いっぱいまで出荷が続きます。その他、試験的に豆類の栽培も手がけています。
中生白花豆、紫花豆、や別称「真珠豆」と呼ばれるたまご豆、黒大豆や千石黒大豆など10種を超える豆類を栽培しています。たとえば、ハウスは順尚さん自らが組み立てました。何かがなければ、自分で作ればいい。足りなければ工夫する。自然に寄り添って、毎日を生きる。
「これって、すごく贅沢なことなんですよね」順尚さんは顔を輝かせます。
やなぎやファームから皆様へ
柳谷順尚、柳谷悠子さん夫妻
やなぎやファームの柳谷順尚さんは新婚旅行で訪れた弟子屈の大地に魅せられ、夫婦ともども新規就農者として移り住みました。2年間の研修期間を経て、昨年2ヘクタールの後を手に入れたのです。6棟のビニールハウスは順尚さん自ら組み立てて構築し、しかもさらに3棟を増設する計画で、そのバイテリティーは、畑作文化があまり浸透していないこの地域で周囲の人々を驚かせました。
厳しい気候と大変な農作業。「辛くはないですか」という問いに「寒いのも、作物とのかかわりも楽しんでやってます」と悠子さんは笑って言います。「とびっきりのトマトとメロンをたくさんの人に食べてもらいたい」「どうしたら味わい深いものが作れるか、毎日考えて奮闘しています」と順尚さん。
やなぎやファームのトマトやメロン、じっくり味わっていただければ、きっと順尚さん、悠子さんの熱い思いが伝わることでしょう。