クライマーズ・ハイ




タイトルの“クライマーズ・ハイ”とは、登山時に興奮状態が極限まで達し、恐怖感が麻痺してしまう状態を指す言葉だ。
1985年8月12日、日航機墜落事故発生。乗客乗員524名のうち生存者4名、死亡者数520となった凄惨な悲劇だ。登山道などない真夏の山中という劣悪な環境のなか、“報道”という使命を胸に奮闘した新聞記者たちを描いた社会派エンタテインメントだ。
群馬県の有力紙・北関東新聞の記者である主人公(堤真一)は、翌朝に迫った谷川岳・衝立岩登頂のための準備を進めていた。一匹狼の遊軍記者である彼に突然、「ジャンボ機が消えた」という一報が舞い込む。ワンマン社長(山崎努)の鶴の一声により、主人公はこの事故の全権デスク(最高責任者)を命じられるが…。




言うまでもなく、真実を伝えるこそが報道だ。だが悲しいかな、メディアというものは広告費を主たる資金源にしている性質上、クライアントの意向や政治的力関係によって真実を真実として伝えられない局面に立たされることも多々あるのが現状だ。人としての良心と、“カネ”、“立場”との攻防。両者が鬩ぎあうなか、自分の大切な何かを捨ててまでも守らなければならない“使命”を貫き通す様は、汗と泥まみれのスクリーンから尊い尊い輝きを垣間見せてくれる…泥沼のなかから、美しい蓮が花を咲かせるように。
事故から23年経った今、本作のその輝きは被害者とその遺族たちにとって、必ずや手向けの花となることであろう。
現場の緊張感を出すために撮られた2541にも及ぶカットも圧巻。このカット数は監督自身の最高記録でもあるという。こうした細やかな演出も、花びらにつく水滴のように故人たちの心を癒すに違いない。

クライマーズ・ハイ(Blu-ray)
クライマーズ・ハイ(単行本)
原作:原田眞人
監督:横山秀夫
出演:堤真一 /堺雅人 /尾野真千子
ジャンル:邦画

© 2008「クライマーズ・ハイ」フィルム・パートナーズ