大いなる陰謀

本作の原題は「Lions for Lambs」…“羊に率いられたライオン”である。現場を知らない愚鈍なホワイトカラーが、叡智に長け、泥にまみれて必死で戦う勇敢な兵士たちに、絶対的な権力を持って拙い指示を下す。結果は…言わずもがなだ。そして、たくさんの兵士たちの死は、政府によるマスコミへのリリースによって“名誉ある死”と讃えられる。何も知らない市民たちは報道を見聞きし、多くの人たちはそれらの情報を鵜呑みにし、「右ならえ右!」とばかりに兵士たちに賛辞を送る。なるほど、確かに兵士たちの死は国のために戦って使命を全うした尊い尊い行為だ。だが、そもそもの指示はその戦局に対して妥当なものだったのか? そんなにたくさんの命が必要とされるものだったのか? そして、マスコミからの情報を何の疑いもなく信じきる“癖”がついてしまっている我々とは?

大統領への野望を持つ上院議員(トム・クルーズ)、彼からの取材依頼に応じるジャーナリスト(メリル・ストリープ)、無気力な日々を送る生徒を熱く説得する大学教授(ロバート・レッドフォード)、そして大統領が仕組んだ戦略のもと、戦地に赴く二人の兵士たち。それぞれのドラマが進むたびに浮かび上がってくる接点。そして兵士たちには、更なる苛酷な運命が待ち受けていた…。

とかく、憲法第9条に守られた日本というこの国に住んでいると、戦争というものは遠い遠い海の向こうで行われている何か現実感のないもの…テレビでしか知ることのできない、朧気なものとしか思えなかったりする。「反対、反対」というだけでは戦争はなくならないもの、というのが悲しいかな、これまた現実でもあろう。であるならば、戦争というのは実際の戦地で繰り広げられている銃撃戦だけではなく、本作で微に入り細に入り描写されているように、市民への情報操作も含めたすべての情報戦こそが戦争であると認識し、その上で我々が“できること”は何か、ということを考えねばならないのかもしれない。
その“できること”ととは、三日坊主で終わってしまうような具体的な行動を伴った何かである必要はない。普段、何の疑念もなくマスコミ報道を信じてしまっているその意識を改革すること、報道の中にも嘘は存在すること、それは真実を伝えていない、などといった分かり易いことではなく、ある事象を表現する言葉の摩り替え、それによる印象の操作…面白おかしく報道すれば視聴率が稼げる、などといった姑息な拝金主義に魂を売り渡してしまったマスコミの嘘を見抜くこと。ドキュメンタリー番組でさえもストーリー性を付与して視聴者に感動を与えるために脚色されていること、誤報による訴訟で敗訴しまくるマスコミ、だが訂正謝罪欄は目立たぬ箇所に小さく…それらの、ありとあらゆるマスコミからの洗脳に気づくことも立派な“できること”なのではないか。

もちろん、本作で示されているからといってすべてのホワイトカラーが羊だ、などという安易なステレオタイプ的結論付けには陥りたくない。映画という形態をとっていてもそれはそれで一個の確固とした媒体なので、感動したからといって感情的に流されてはまた元の木阿弥なわけだ。
にしても、ロバート・レッドフォード。ウィレム・デフォーにそっくりである。
そっくりといえば、ケヴィン・スペイシーとベン・キングズレーもね。関係ないけど。

大いなる陰謀(DVD)
原作:Lions for Lambs
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:マシュー・マイケル・カーナハン
出演:ロバート・レッドフォード /メリル・ストリープ /トム・クルーズ
配給:20世紀フォックス映画
ジャンル:洋画

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