asobist.com

たとえ辛い過去があっても、たった一人の大切な人がいるだけで生きていける。そんな珠玉のメッセージがこめられているのが本作だ。
心がなくなってしまったかのように、友だちも作らず趣味もなく、機械のように日々を送るだけの主人公。工場での単純な仕事は完璧だが、同僚たちとのコミュニケーション不足を理由に、工場長は彼女に小旅行を勧める。旅先でのふとした出会いから彼女の再生が始まっていく…。

前作の「死ぬまでにしたい10のこと」では、自分の死期を知ることで、逆に心が生き返っていく過程が描かれた。同じ監督と主演女優によって完成された本作は、一度心が死んでしまった人間が、どう自分を生き返らせていくかを綴った物語である。
危険から身を守ることは必要だが、必要以上に身を守りすぎては得られるはずのものも得られなくなってしまう。

「安全な道を求める人は、痛みを与えることのない義手義足に取り替えるために自分の手足を切り離す人みたいなものである」とは、ヘンリー・ミラーの言だ。
本作での主人公は、まさにそんな生き方をしていた。信じがたい苦痛を体験してしまったばっかりに、何も感じない心を築き上げてしまったのだ。だが、たった一人との出会いから、彼女は失った心の機能を取り戻していく。切り離してしまった手足を、元通りに戻す作業を始めたのだ。

人は一人きりで生まれてきて、一人きりで死んでいく。だが、その人生の途中において、いかに他者と心を通わすことができるか。誰かと一緒に生きていくことができるか。それこそが、人生の輝きそのものなのだろう。