ピッチの早いサスペンスを期待してはいけません。
最後まで警察官も刑事も探偵も登場しなければ、殺人事件も起きない。死人も出ない。
光源とはすなわちライティング。「映画を創る」裏舞台のお話。
テンポが速いわけでもないのに、どういうわけか活字がビッチリ詰まっている感がなく、気がつけばどんどん読み進めている。
映画製作の裏舞台を借りて、表現したかったことがなんだったか、読み終えて少しわかる。
人が自らの立ち位置を確認しようとする時、「光源」をどこに求めるか?
明暗は、それぞれが両極のものとして自己主張しながら、互いに依存せずには表現されない。
主人公がいるような、全ての登場人物に等しく「光」が当てられているような、不思議な構成。登場人物が強いて魅力的に描かれているわけではなく、それぞれの内側に危うく相反する模様が重なってはじめて模様の絵解きができるような。それでもわからないような。いやしかし、面白くなかったわけではなく、それはもう最後まで一気に読めてしまうわけで…。
ひょっとすると、一人の人間が持つ多様性を複数の登場人物に振り分けて描く、といったある種の試作なのではないかとも思える。もしかしたら他の桐野作品とは表向き異質に見えて、これもまた心底桐野サスペンスなのかもしれない。
作者名:桐野 夏生
ジャンル:–
出版:文春文庫