デイヴィッド・ボウイが亡くなってから、ボウイはもちろん、ボウイとゆかりがあったり共演したミュージシャンだったりをよく聴いています。ボウイと共演といえばミック・ロンソン やブライアン・イーノ を思い浮かべる人が多いと思うけど、 『Let’s Dance』 がボウイ初体験だった俺の頭にまず浮かぶのは、そのアルバムのプロデューサーだったナイル・ロジャース! CHIC のギタリストとして知られるナイル・ロジャースは、『Let’s Dance』のほかにもマドンナの『Like a Virgin』 や、ミック・ジャガーの『She’s the Boss』 など数々の大ヒット作を手がけており、80年代を代表するプロデューサーといっても過言ではない人物です。
ナイル・ロジャースはニューヨーク出身のギタリスト/プロデューサーで、現在63歳。スタジオミュージシャンとして活動したのち、77年にファンクバンドのCHICでデビュー、 『Le Freak』 、『Good Times』 などのシングルが全米ナンバーワンを獲得しています。CHICはディスコブームの火付け役のひとつとして日本でも人気があったようなので、70年代にディスコ通いをしていたオジサマやオバサマ達には懐かしい名前なんじゃないかな。俺はさすがに後追いだけど。そういえば以前、早見優が子供のころにCHICを聴いて友達と踊っていた、なんてことを話していて、帰国子女はやっぱり違うなあ……と感心したこともありました。
ナイルのことを最初に意識したのはたぶんDURAN DURANのシングル に載っていたクレジットだったと思う。少年時代の俺には、気に入った曲の歌詞と訳詞をノートに書き写すというなかなか面倒くさい習慣があったんだけど、自分なりに資料を作っているつもりだったのか、誰の作詞作曲なのかだとか、知りうる限りのデータも書き込んでいてね。でも、そのシングル曲はクレジットを見ても誰の曲なのかわからなかったから、プロデューサーとして名前が載っていたナイルの名前をそのノートに書いておいたんだよね。まあ、そのころはプロデューサーがいったい何をやる人なのかもわかっていなかったし、ナイルのこともさほど気に留めていなかったんだけど、しばらくしてボウイの『Let’s Dance』やマドンナの『Like a Virgin』のプロデューサーもナイルだと知ると、いったい何者なんだ……? と、俄然興味がわいてくるわけですよ。それでさっそくCHICを聴いてみたのでした。そういえば、DURAN DURANのメンバーがやっていたTHE POWER STATION のドラマーがCHICのトニー・トンプソンで、プロデューサーがベーシストのバーナード・エドワーズだったというのも聴いてみようと思ったきっかけになったな。
『Le Freak』
CHICといえばやっぱりこれ!
『おしゃれフリーク』っていう邦題もいいよね。
ただ、黒人の女性ヴォーカル2人を擁したCHICのサウンドは、ダンサブルで洗練された、まさに“シック”なもので、まだまだ子供だった俺には少し大人向けに感じてしまい、それほど熱心には聴きこまず。俺が彼らの魅力に気付くのは、音楽性を広げようといろんな音楽を改めて聴き漁るようになったハタチぐらいのことでした。メロディアスでキャッチーな楽曲やブルージーなハードロックを好む俺でも、自然に体が動いてしまうようなバンドのグルーヴ……、とくにナイルのカッティングを中心としたグルーヴィーなギターが凄かった。ファンキーなカッティングだけではなく、メロディを弾いていても常にビートを感じさせるギタリストなんてなかなかいないよ。まあ、黒人のファンク・ギタリストには比較的多いスタイルなのかもしれないけど、ナイルこそがこのスタイルのパイオニアだ。そして、ナイルはこのグルーヴィーなギタースタイルだけではなく、絶妙なポップセンスや、緻密なアレンジ能力も持っていたからこそ、マドンナのようなポップシンガーのプロデュースも出来たんだよね。
『I Want Your Love』
この日、俺は会場にいました。この曲はライヴの序盤にやって、
いきなりこれ?! って興奮したのを覚えています。
バーナード・エドワーズはこの来日中に日本で亡くなってしまった……。
CHICは長期間の休止を経て活動を再開するものの、トニーとバーナードが亡くなってしまう(トニーは活動再開に参加せず)。そしてナイル自身も11年に癌を発症、活動が危ぶまれたけど、癌を克服し、オリジナルメンバーがナイル一人になった今もコンスタントに活動を続けている。昨年は23年ぶりとなるオリジナルアルバムを発表、来日公演も実現した。そのライヴは観に行けなかったんだけど、96年のライヴで感じた興奮を今でも覚えています。スティーヴ・ウィンウッド やスラッシュなどの豪華ゲストや、オマー・ハキム をはじめとする凄腕ミュージシャンたちを束ねるナイルの辣腕ぶりといったらもう! 震えがくるぐらいカッコよかった。もちろんバーナードとのパートナーシップもあってこそ、だったんだろうけどね。バーナードやトニーとの共演はもう観られないけど、ナイルのライヴはまだまだ観られるはず。今年もまた来てくれないかなあ。
『I’ll Be There』
最新アルバムから。
いやもう、相変わらずカッコいいっす。