「この究極のシナリオは、あまりに真実に迫っていてやっかいだ」――ロサンゼルス・タイムス、「ギレンホールが最高におぞましい。身の毛がよだつほど魅入られる傑作!」――ニューヨーク・デイリーニュース……主要各誌が絶賛し、本年度アカデミー賞脚本賞にもノミネートを果たした本作。事件・事故現場の凄惨な映像を撮影してはテレビ局に高値で売りつける報道パパラッチ、通称“ナイトクローラー”を、『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞にノミネートされたジェイク・ギレンホールが、2ヶ月で12キロという過酷な減量を成し遂げて怪演。テレビ業界の裏側と現代社会の闇を“美しく”描きあげた大傑作だ。
眠らない街、ロサンゼルス。まともな職に就けず、生きるために法までも犯さざるを得ない生活をしていたルー(ジェイク・ギレンホール)。そんなある夜、事故現場で悲惨な映像を撮影するカメラマン、通称“ナイトクローラー”たちを目の当たりにする。見よう見まねで自らも“ナイトクローラー”の仕事に手を染めていくルーだったが……。
「昔よりも凶悪犯罪が増えた」「昔はのどかで良かった」等々の声を聞くことがたまにある。現代人の残虐性が昔よりも増した、という説だ。だが、昔から凶悪犯罪は一定の割合で発生しており、現代になってそれが多くなったように感じるのは、単に現代が情報化社会になったため凄惨なニュースが万人に行き届くようになっただけだ。犯罪でなくとも、ひと昔前には市中引き回しや磔など、世界各国でも処刑は公開で行われ、日本でも江戸時代には刑場の見物が庶民の娯楽としても機能していた。昔から事故現場に野次馬が大勢たかるのは全世界共通だし、現代ではテレビやネットを通じてその模様を多くの人に届けることが可能になっただけだ。
これは、ただただヒトという生物に残虐性があるだけではない。多かれ少なかれ人間は死への恐怖を無意識にあるいは意識的に持っており、死につながる事象、すなわち事故や事件での肉体の損傷状態をあらかじめ見ることによって死への過程や状態の例を学習し、死ぬことへの不安を回避しようという本能的心理が働いているためでもある。もっとも、この本能を抑えて理性を発揮してきたからこそ人類は繁栄してきたわけだが。
人々のこうした心理を満たすため……とまで深くは考えていないだろうが、我々が持つその“本能”に従い、ナイトクローラーたちは全身全霊で働く。お腹が空くから食事をするように、眠くなるから眠るように、彼らは本能に突き動かされて人々の不幸を撮る。そしてギレンホール演じるルーは、不遇の時代を払拭するため、この“天職”でのビジネスを成功させて一発逆転するため、そして何より“美しい映像”を撮るため、飢えたハイエナのように、自身の異常な性格を最大限活用して、超えてはいけない一線をやすやすと超えていく。それは、彼を虐げてきた社会への華麗なる復讐劇でもあるのだ。
本作の監督・脚本はダン・ギルロイ。監督としてはこれが初作品となるが、脚本家としては『落下の王国』『リアル・スティール』などで着実な実績を重ねてきた。ちなみに彼の兄は『ボーン・レガシー』のトニー・ギルロイ監督で、ダン自身も同作で兄のトニーと共同脚本を手がけている。おぞましい本作は、その内容とは裏腹に――一例を挙げるなら、死にゆく命を背景にしながら、とある登場人物への賛辞が語られるなど――ひとつひとつの構図が完璧に美しく、色合いもまた彩度が高く“テレビ的”に鮮やかだ。これは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でアカデミー賞最優秀撮影賞を受賞し、直近では『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』も手がけたロバート・エルスウィットが撮影を担当した功績が大きいだろう。そうした、おぞましい行為と美しい映像との真逆の対比もまた、大衆に向けた“分かりやすいテレビ”を表している。人々の本能に最大限奉仕し、視聴率のためなら法律も道義もへったくれもなく何でもやるテレビ。人の不幸をショーへと、見世物へと変えてしまうテレビ。そんな下劣な、だが我々の生活のいちばん近くにあるテレビへの皮肉を言外にもふんだんに盛り込んだ、完璧な作品といえよう。本作をこの世に産み落とした監督には惜しみない賛辞を贈りたい。
役のためには減量が必要だと自主的に減量をこなし、脚本に惚れ込んでプロデューサーとしても参加しているジェイク・ギレンホールの演技も圧巻の一言に尽きる。あの死んだ魚の目。サイコパスここに極まれり。
監督・脚本:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド、ビル・パクストン
配給:ギャガ
公開:8月22日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー
公式サイト:http://nightcrawler.gaga.ne.jp
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