第136回 洋楽編 GRAHAM BONNET――ギター・ヒーローにとって、常にナンバーワンの名シンガー

本当に暑い日が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。俺は前回ジョー・リン・ターナーを取り上げたらRAINBOW熱に火がついちゃってね。このところRAINBOWばっかり聴いております。RAINBOWは、リッチー・ブラックモアが自身の音楽を追求するためにDEEP PURPLEを脱退してまで結成したバンドですが、シンガーが変わるたびに大きく音楽性が変わったバンドでもあります(音楽性を変えたくてシンガーを変えたんだと思うけど)。今回はそのRAINBOWの二代目シンガー、グラハム・ボネットをご紹介! 

IKKY_graham.jpgグラハム・ボネットは68年にMARBLESのシンガーとしてデビュー。MARBLES はシングルが全英チャートの5位を獲得するようなポップスバンドだったらしいけど、79年にRAINBOWに加入して以降、グラハムはHR/HMシンガーとして活動を続けています。驚異的な音域の広さとパワフルな歌声の持ち主で、RAINBOWのリッチー・ブラックモア以外にも、イングヴェイ・マルムスティーンマイケル・シェンカーなどのギター・ヒーロー達と数多く共演していることでも有名かな。ただ、最初はその迫力のある歌声よりもグラハムのルックスに驚いちゃってねえ。短髪でオールバックにサングラス、そしてスーツにネクタイ……、本人はどうもジェームズ・ディーンあたりの50年代風スタイルを狙っていたらしいんだけど、日本人の俺には横山やすしにしか見えなくてさ。まあ、よくて(?)日活映画のチンピラとか。今でこそ短髪のHR/HMアーティストも珍しくなくなったけど、あの当時はかなり特異な存在だったはず。実際リッチーにはいつも髪を伸ばせと言われていたらしいし、俺もあんまりカッコいいとは思っていませんでした。でも、実は凄くハンサムだし、今となっては(現在もそのスタイルを続けているのも含め)とてもカッコいいと思う。

RAINBOW 『All Night Long』
グラハムRAINBOWの代表曲。
このPVを初めて観た時は、グラハムの見た目とその歌声のギャップにビックリしたものです。


……と、思わずルックスのことから書き出してしまったけど、そもそもロック界屈指の名シンガー、ロニー・ジェイムズ・ディオの後任としてRAINBOWに加入しているわけで、シンガーとしての実力が高いのは言わずもがな。グラハムのパワフルで野太い歌声には剛速球投手のような迫力があって、RAINBOWはグラハム時代がベスト! という声も多い。ただし、RAINBOWは残念ながらアルバム 1枚を残したのみで脱退してしまう。そしてソロアルバム を発表した後、マイケル・シェンカー・グループに参加、これまたバンド史上最高の出来! と評されたアルバム を発表するも、すぐに脱退……。続いて自身が中心になって結成したALCATRAZZ では3枚のオリジナルアルバムを発表したけど、今度はアルバム1枚ごとにギタリストが交代。超絶ギタリストのクリス・インペリテリ率いるIMPELLITERI にも出たり入ったり……、新メンバーで再結成したALCATRAZZも今はやっていないようだし、どうにもバンドが長続きしない人であります。グラハムだけの問題じゃないはずだけどね。

ALCATRAZZ 『Hiroshima Mon Amour』
イントロからフルスロットルのイングヴェイのギターが衝撃的だけど、
グラハムのヴォーカルも凄い迫力!


グラハムと組んだアーティスト達によると、グラハムはほとんど作曲をしないらしく、この辺がもしかするとギタリストに重宝される所以かもしれない。どんな曲でも歌いこなす実力と、誰もが認めるエゴの少ないナイスな人柄と。ギタリストが中心のバンドはやはりギター中心の楽曲になりがちで、そういったギタリスト達はシンガーに合わせて曲を書いたりしない。彼らは、“俺のやりたい曲をなんでも歌えるシンガー”を求めているといっても過言ではないと思う。まあ彼らのようなワールドクラスのミュージシャンならばもう少し考えていると思うけど、イングヴェイは「これなら俺の好きにやれると思った」とインタビューで発言していたし、俺の予想は当たらずとも遠からずじゃないか。それでも、ただ高いキーが歌えるとか、パワフルだからいいとかいうわけではなく、グラハムの声やその歌唱が魅力的だったからこそ、いろんなギタリストに求められたはずでね。グラハムに俺の曲を歌ってほしい、というギタリストが多いんだと思う。あんな歌い方が出来るシンガーなんて他にいないし。

IMPELLITERI 『Stand in Line』
リッチーとイングヴェイを混ぜたかのようなスタイルでデビューしたクリス・インペリテリ。
でもこれは良い曲だよね。しかし、グラハムは誰とやってもグラハム……。


現在のグラハムは自身のバンドを率いて活動していて、今年6月には来日公演も行われた。御年なんと67歳のグラハムだけど、今も変わらずあの驚異的な歌声を聴かせてくれたという。凄いよね。セットリストはRAINBOWやALCATRAZZの楽曲ばかりだったらしいし、新作の発表もしばらくはなさそうだけど、ジョー・リン・ターナーと同じように、自分には何を求められているかがよくわかっていて、それを楽しんでもいるんだと思う。別にグラハムの隣にギター・ヒーローがいなくてもいいじゃないか。グラハムがあの歌声を以前の迫力そのままに聴かせてくれるならそれでいい。グラハム自身がヒーローなんだもの……。