第131回 洋楽編 ERIC MARTIN――焦がれるほどの「カッコよすぎる歌声」

ハスキーボイスのシンガーに昔から憧れていた。ロッド・スチュワート  や、ブライアン・アダムス ジョン・ボン・ジョヴィ……彼らのような声に生まれていたら、俺はギターなんか弾かずにマイクを持って歌っていたと思う。美声で朗々と歌われるハイトーンヴォーカルよりも、しゃがれ声のシャウトにたまらなく惹かれる。ハスキーボイスのオペラ歌手なんていないし、声楽的にはNGなのかもしれないけど、だからこそ、これぞロックシンガー! と思うんだよね。さて、今回は先にあげた3人にも負けず劣らずの魅力的なハスキーボイスの持ち主、エリック・マーティンをご紹介! MR.BIGでの活動でよく知られているエリックですが、それ以前から実力派シンガーとして知る人ぞ知る存在でした。

eric_m.jpgエリック・マーティンは83年にERIC MARTIN BANDでデビュー。1枚のアルバム  を残して解散したあと、ソロアーティスト  として活動を開始。俺がエリックのことを知ったのはこのころで、VAN HALENを脱退したデイヴ・リー・ロスの後任候補にエリックの名前が挙がっていたからでした。そういえばVAN HALEN以外にもJOURNEYTOTO  への加入の噂もあったっけ。結局どのバンドにも加入はしなかったけど、そんなビッグネームに加入する噂が次々出てくるほど、エリックは実力を認められていたわけです。

ビッグネームへの加入はなくなり、ソロアーティストとしての活動も成功とはいかなかったエリックは、ビリー・シーン(B)と出会い、MR .BIGを結成、ようやく成功を掴む。余談だけど、ビリーはデイヴ・リー・ロスのバンドにいたというだけでなく、VAN HALENへの加入を誘われながらも土壇場で断られたという経験があったというし、二人にはなにか因縁めいたものを感じてしまう……。MR.BIG結成時に話題になったのは世界最速とも称されたポール・ギルバート(G)とビリーによる超絶テクニックの共演だったけど、蓋を開けてみれば彼らの楽曲はあくまでエリックのソウルフルな歌が中心で、俺も含め、テクニカルなプレイがかなり抑えられていたことに驚いたロックファンが多かった。

エリックは抜群の歌唱力と豊かな表現力も凄かったけど、なによりも歌声そのものが驚異的だった。俺はハスキーボイスのシンガーがハードロックを歌うのがたまらなく好きで、そんな俺にとってエリックの歌声はまさに理想としていたものだった。ソウルフルな激しい歌い方だけではなく、力を抜いた何気ない歌い回しすら俺にとっては完璧だったし、なんでこんなにカッコいいんだ、と焦がれるほど憧れた。エリックが俺のバンドで歌ってくれたら……と、いつも妄想していたよ。俺とじゃ釣り合わないのはわかっていたけど、MR.BIGの他のメンバーに嫉妬してしまうぐらい、エリックの歌声が欲しかった。ビリーもポールも、この歌声を手に入れたらそりゃ歌中心にするよね、と納得もしたけど。


『Addicted To That Rush』
最初はバックの3人の圧倒的なテクニックに耳が行くと思うけど、
エリックの歌がなかったらこの曲は単にテクニックのひけらかしになってしまったんじゃないかな。
ギターソロ後のブレイクパートのエリックのカッコよさったら!

個人的に、楽曲の魅力は歌によるところが大きいと感じている。もちろんメロディや歌詞、演奏の良さもあってこそだけど、単に良い曲からさらに一段上に行くかどうかは、やっぱり歌次第じゃないか。もっと言えば、歌の上手さよりも“声”そのものの良さだ。全米ナンバーワンに輝いた『To Be With You   』は名曲だけど、それはエリックの声だからこそ……なんていうと他のメンバーのファンに怒られるかな。でも、あのシンプルな楽曲の最大の魅力は、エリックの“歌”だと思う。


『To Be With You』
超絶テクニックを持つほかのメンバー達がシンプルな演奏に徹し、全力でエリックの歌をサポートする素晴らしさ。
名曲かつ、名演です

R&Bやソウルに影響を受けたというエリックには、そういうシンガーにありがちな暑苦しさはなく、透明感をも感じさせる歌声はどこか女性的に聴こえなくもない。数年前に女性シンガーの楽曲ばかりをカヴァーした『MR.VOCALIST  』シリーズが大ヒットしたけど、まったく違和感がなかったし。アメリカ人は歌にしてもなんにしても、どうも濃いものを好む傾向にあると思うんだけど、日本人はわりとあっさりしたものを好むよね。エリックの中性的なルックスも含め、この辺が日本の女性に大受けした理由なんじゃないかな。


『Hero』
歌姫マライア・キャリーのヒットソングのカヴァー。
個人的にはマライアのバージョンより好みです

MR.BIGはメンバー間の確執によるメンバーチェンジを経て、02年に一時解散するも、09年にオリジナルメンバーで再結成。現在も活動を続けている。これまで書いてきたことと矛盾するようだけど、やっぱりエリックの歌と対等に渡り合えるメンバーが揃ったMR.BIGは素晴らしいバンドだ。今の彼らは過去の確執を乗り越えて、4人が揃ったときのケミストリーを楽しんでいるように見える。……パット・トーピー(Dr)が難病を患っていることを思うと、なかなか4人での活動は難しいかもしれない。それぞれのソロ活動も悪くないけど、それでもパットに無理のない程度でなんとかこれからもMR.BIGを続けてほしいなあ。エリックの歌がいちばん活きるのは、やっぱりMR.BIGだもの。

※ikkieがなんと「出張ギター教室」を始めてしまいました!
とにかくここから  アクセス! 動画もあるよん。
http://dokodemoguitar.com/