イケてない僕の目の前に現れた、もう一人の自分。イケてるそいつは僕とは正反対で、僕の人生をどんどん奪っていく……。ロシアの文豪ドストエフスキーの『分身(二重人格)』を原作に、『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞主演男優賞ノミネートのジェシー・アイゼンバーグが一人二役を怪演。日本のグループサウンズをBGMに、シニカルな異世界が幕を開ける。
どこともつかない世界、いつともわからない時代。うだつの上がらない会社員のサイモン・ジェームズ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、職場で警備員にさえ馬鹿にされる日々を送っていた。サイモンの唯一の楽しみといえば、思いを寄せるコピー係のハナ(ミア・ワシコウスカ)の部屋を望遠鏡で覗き見ること。だがある日、外見がサイモンそっくりのジェームズ・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)が入社してくる。新入社員にも関わらずジェームズは仕事のデキる男で、サイモンとは正反対のイケイケ系の性格。サイモンの存在は徐々にジェームズを脅かしていき……。
舞台は全体的にセピアがかった色合いで、光と影のコントラストが強く、どこか昔のようでいて最新鋭の機器も使われているというノスタルジックな異世界。どこでもない、いつでもないという世界観を絶妙に表している。時おり流れる音楽は『上を向いて歩こう』、『ブルー・シャトウ』などの日本の昭和歌謡。我々からしたら一度は耳にしたことがある音楽だが、日本以外の国からすればこの「異世界」の演出に充分貢献しているのだろう。
ジェシー・アイゼンバーグといえば、独特の早口台詞を得意とする知性派俳優だ。本作でもその「技」は充分堪能でき、一人二役のジェシー同士で同じ画面上で言い合っている。これはなんとも不思議な光景で、思わずその絶妙な間に引き込まれてしまう。これは頭のキレるジェシーだからこそ成しえた所業だろう。実際、監督自身もジェシーのアイデアをふんだんに盛り込んで本作を製作したという。イキイキと「変人」を演じるジェシーから発散されたヨロコビ・オーラが、こちらにまで伝わってくるようだ。
製作総指揮はイギリスの名優マイケル・ケイン。前作『グランド・イリュージョン(http://asobist.samplej.net/entame/cinemapia/404.php)』でジェシーと共演した縁からだろう。名優(マイケル)が名優(ジェシー)をサポートする。本作には本物の芝居のエッセンスがふんだんに含まれているのだ。
人は誰でも、万能の自分を夢見る。自分の姿形はそのままで欠点のまったくないパーフェクトな自分が、自分に成り代わってこの人生を切り進んで行ってくれはしまいかと。だが、そうなったらそうなったで「違う不幸」が形を変えて自分自身を襲うのだ。誰もが違う自分を生きることはできない。自分自身を生きるしか選択肢はない。逃げることはできない「真実」を、まざまざと思い知らされてしまう。
原作:フョードル・ドストエフスキー『分身(二重人格)』
監督:リチャード・アイオアディ
脚本:リチャード・アイオアディ、アヴィ・コリン
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、ウォーレス・ショーン、ヤスミン・ペイジ、ノア・テイラー
配給:エスパース・サロウ
公開:11月8日(土)より、シネマライズほか全国公開
公式サイト:waraubunshin-espacesarou.com
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