死刑囚の告発という衝撃の内容からたちまちベストセラーとなったノンフィクション小説を原作に、山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキーといった個性派・実力派俳優を揃えて映画化。モントリオール世界映画祭に正式出品されるなど、海外からの注目も高まる本作。弱冠39歳の白石和彌監督が描き出す質感は、淡々としていながらも重厚で、鑑賞後にもずっとあとをひく疑問を観客に投げかける。
スクープ雑誌の記者(山田孝之)は、東京拘置所に収監中の死刑囚(ピエール瀧)から余罪の告発を受ける。死刑囚曰く、その余罪とは殺人であり、すべては自らが「先生」と呼んでいた不動産ブローカー(リリー・フランキー)が首謀者である、と。死刑囚から記事化を懇願され、疑念を抱きながら裏取りを始めた記者だったが…。
初めは半信半疑で、しかし取材が進むにつれ疑念は確信へと変わり、やがて狂気にも似た執念を持つようになる記者。その心情の変化を、実力派として定評のある山田が好演。家庭を顧みずに仕事に没頭するさまは果たして本当に正義なのか。それともただの偏執狂と化しただけなのか。取材と家庭、両方の軸を巧みに交叉させながら、真の「凶悪」の意味を観客に問いただしていく。
バイオレンスシーンの筆致はあくまでも淡々としており、それがなおさら不気味なリアリティを醸し出している。このあたりの触感は園子音監督を彷彿とさせる。被害者を恫喝し、暴力を加えて死に至らしめるピエール瀧は堂に入っている。また、基本は冷静に殺人を「こなして」いくピエールが、ある人物を殺る際に見せる絶叫の表情は鳥肌ものだ。そして、善悪など微塵も考えず、ただ金のためだけに、あくまでビジネスライクに表情ひとつ変えず、むしろ微かな笑みを浮かべながら殺人を指示するリリー・フランキーも不気味この上ない。2人のサイコパスに触れるうち、家庭の窮状を訴える妻(池脇千鶴)の心の痛みにも鈍感になっていくかのような記者。ニーチェの名言、「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」を地で行くかのようだ。
この衝撃の内容は実は氷山の一角であって、この国には未解決の、または「自殺」で片づけられた解決済みの殺人が山ほど埋もれているのだろう。暴力団と不動産ブローカーの癒着、警察の怠慢、悲惨な介護の実態。日本の様々な暗部が、暗いスクリーンに晒される本作。自らの心の暗部からも目を背けてはいけないと、諭されるかのような傑作だ。
原作:新潮45編集部編『凶悪―ある死刑囚の告発―』(新潮文庫刊)
監督:白石和彌
脚本:高橋泉/白石和彌
出演:山田孝之/ピエール瀧/池脇千鶴/リリー・フランキー
配給:日活
公開:9月21日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト:http://www.kyouaku.com/
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