世界のタワーをたずねて祝・東京スカイツリー開業 !高さわずか数十センチ、でも空にいちばん近い塔

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「タワー」や「塔」と聞くと、私は東京タワーやピサの斜塔など昔ながらの懐かしい建物を思い浮かべてしまうが、今は世界各国に続々と建造される超高層ビルをイメージする人も多いのではないだろうか。現時点で世界一を誇るドバイのブルジュ・ハリファはなんと高さ828メートルなのだとか。東京タワーの約2.5倍というだけでも驚きなのに、アラブ諸国には今後も1000メートルを越す超高層ビルの建設予定が複数あるという。少しでも空に近づきたいという素直な夢か、それとも世界一という賛美に酔いしれたいだけなのか。いずれにせよ、"バベルの塔"の古よりある人類の超高層建造物への憧れは留まることを知らぬようだ。

ここペルーにおける最高層の建物は、昨年リマ新市街にオープンした高さ118メートルの外資系ホテルだ。来年はまたその記録を塗り替えるビルが完成するらしいが、その高さは120メートルになる予定。ずいぶん控えめな数値と謙虚な記録更新だが、ペルーは日本の3.4倍の国土を持つにもかかわらず、人口は日本の1/4以下と密度が低い。その上日本に負けず劣らずの地震大国となれば、超のつく高層ビルなど無用の長物と言えるだろう。

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青空に向かって伸びる石の塔、サイワ

しかしひとたびアンデスに行けば、それこそ雲の上とも言える場所にたくさんの「塔」を眺めることができる。その塔とは「Sayhua(サイワ)」、ケチュア語で「道標」という意味だ。

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私の作ったサイワ。なかなか立派でしょう?

サイワは道の分岐点や山頂を示すために積まれる石の塔。登山を楽しむ方には「ケルン」と言えばすぐおわかりになるだろう。インカ時代には、サイワはシャーマンが呪術目的で設置した神聖なものだったという記述もある。山の峰々をも信仰していたインカの人々が山岳神「アプ」を奉るために石を積み、ときには生贄を捧げて祈ったであろうことは想像に難くない。しかし現在はただ単に旅の記念として作られる場合も多く、展望台などさして道標が必要なさそうな場所にもたくさん作られている。そしてインカの末裔たちは、神への祈りよりも自らの記念撮影に余念がない。

私がペルーで初めて見たサイワは富士山の遥か上空、標高4910メートルというアンデスの峠だ。真っ青な空に向かって聳えるそれは、まさに「空にもっとも近い塔」であった。吹きすさぶ風の中に凛と立つその姿には、神々しささえ感じられた。じっと見つめていると500年前にタイムスリップしてしまいそうな、そんな気持ちになった。

現代のサイワも旅行者の願いを神様に届けてくれるだろうか? 私も小さなサイワを積んで旅の安全を祈願し、次の目的地へと足を向けたのだった。