家族にも正体を明かさず、民間人をスパイに仕立て上げて国際テロから国を守る外事警察。2年前、NHKで視聴者から絶大なる支持を受けたテレビドラマが、満を持しての映画化。本物の外事警察官らからのリサーチを経て、その奇異なる職業がベールを脱ぐ。
朝鮮半島から濃縮ウランが流出したという情報を得た外事警察。核テロの可能性が高まった日本を守るため、「公安の魔物」と呼ばれ恐れられていた住本(渡部篤郎)は工作員の妻である果織(真木よう子)をターゲットに据え、“落とし”にかかる……。
血糊がショッキングピンクのように見えたのは少し萎えたが、それ以外はダークな質感といい、入り組んだストーリーといい、見応え充分。私のような一般人には想像もつかない世界がスクリーンに繰り広げられる。フィクションならまだしも、こうしたことが現実のものとして行なわれているのだから驚きを禁じ得ない。こんな世界に関わらなくて良かったという安堵と、外事から接触されるようなドラマチックな人生を送ってみたい……などという不謹慎な興味が交錯する。
渡部の演技はまさに怪演で、年齢を経て深くなったほうれい線が尚のこと、その不気味さを際立たせる。外事が演技している様をまた演技するのだから、相当の力量でなければ演じきれないだろう。
渡部に勝るとも劣らない演技力を見せつけてくれたのが真木。日本映画によくある、舞台で発しているかのような演技じみた不自然な演技ではなく、まるで素のままの果織を覗き見しているような、そんな錯覚に陥らせてくれるごくごく自然な演技。これには舌を巻いた。拍手喝采ものだ。
映画というエンターテイメントにおいて説明過多な脚本は無論NGだが、本作のラストは逆に説明が足りなさすぎたようだ。試写後に映画会社の担当者の方から詳細を聞いてようやく納得。暗くどんよりとしたノワール調の質感は素晴らしいが、これでは鑑賞後の観客の頭の中が「?」マークで埋まってどんよりしそうだ。
自分が体験したことのない職業を垣間見れるのは、大変勉強になる。毎日毎日、朝起きてご飯を食べて仕事をしてお風呂に入って寝て……そんななんともない日常を平穏無事に送ることができるのも、この外事警察官たちのおかげなのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。その業務内容に戦慄を覚えつつ、同時に感謝の気持ちを捧げたくなる。
原案:麻生幾『外事警察 CODE:ジャスミン』(NHK出版刊)
監督:堀切園健太郎
脚本:古沢良太
出演:渡部篤郎/キム・ガンウ/真木よう子/尾野真千子/田中泯/遠藤憲一/余貴美子/石橋凌 ほか
配給:東映/S・D・P
公開:6月2日(土)、全国公開
公式HP:http://gaiji-movie.jp/
©2012「外事警察」製作委員会