はさみ hasami

20120105cpicm.jpg理美容を扱った映画となると、まず『髪結いの亭主 』(90年)が頭に浮かぶ。日本ならば荻上直子監督の『バーバー吉野 』(03年)。その他『胡同の理髪師 』(06年)、『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 』(07年)といったところだろうか……。本作はそれら映画に登場する理容師、美容師を育てる理容美容専門学校の物語だ。

永井久沙江(池脇千鶴)はこの学校で未来の理容師、美容師を前に教壇に立つ若手の教員で、日々、誠心誠意をもって学生たちに接している。学生たちも教員たちの熱意に応えるように、真剣な眼差しでペンを走らせ、鋏(ハサミ)や剃刀(カミソリ)を握っている。しかし、学生も何百人といれば、どうしてもレールから少し外れてしまう者も……。
美容科の学生・木村弥生(徳永えり)はハサミが言うこと聞いてくれないというか、どうもカットを苦手とし、そのことを相当思い悩んでいた。ある日、実習室でひとり黙々と見事なハサミの捌きをしている田村いちこ(なんしぃ)の姿を見た弥生は、その場でいちこからハサミの使い方のコツを教わる。すっかり意気投合した弥生といちこはお互いに友情を深めていくだけでなく、弥生はいちこに触発されて何事も一生懸命が大事だということを悟る。
美容科の学生・葉山洋平(窪田正孝)は落ち着きが無く情緒不安定気味。高校時代も引きこもりをしていたこともある。そんな洋平が授業に姿を見せなくなってしまい――。

20120105cpic1.jpg人生の夢に向かって歩き出したばかりの学生。その技術的な挫折や、個々に抱える人生の悩み。家族のこと、恋人のこと。夢と現実の狭間で悩む学生。私もこの作品に出てくるようなデザイナーと同じ経験をしたことがある。しかし、それは続けることによってしか道は開けない。彼が言う最後のセリフは逆説にとらえるべきであろう。彼女もきっとそのことに気づいたのだろう。職人にとっては続けることが才能より大切なのだ。また、挫折しそうな生徒のケアに全力を注ぐ久沙江だが、思わぬところに落とし穴もある。

一生懸命やっていたはずが気づかなかった小さなミスに自分を責め、また彼女も挫折を味わう。でも、やり続けたことの結果が彼女にはあった。そして、人と人は支えって生きていることを知らされる。そう、このハサミのように。先輩教員の築木洋子(竹下景子)のセリフである、「シザーズは人の働きに似ている。上が動く刃、下が受け止める刃」。生徒を支えていたはずの久沙江は実は生徒たちに支えられていたのだ。これから夢に向かって進む学生にとって先生の存在は大きい。どんな先生に出会えるかで人生が大きく変わってしまう。先生だけではない、学生時代の仲間もそうである。先輩、後輩、いろいろな人との繋がりで人は成長していくものなんだと、この作品を通して思う。

映画の中心的な舞台となる東京都中野区。中野区(行政)から後援を得て、区の商店街組合連合会など地域の厚い協力のもとにサンモール商店街や区内各所でのローケーションが敢行され、ありのままの中野区がスクリーンに映し出されていることもこの映画のリアリティを支えている。

夢に向かって突き進んでいる人、壁にぶつかって悩んでいる人、生徒を支える若い先生たちに、ぜひ見ていただきたい作品である。


監督:光石冨士朗
脚本:木田紀生/光石冨士朗
出演:池脇千鶴/竹下景子/徳永えり/窪田正孝/綾野剛/烏丸せつこ
配給:アートポート
公開:1月14日(土) 新宿K`s cinema
公式HP:http://www.artport.co.jp/movie/hasami/
©2010「はさみ hasami」製作委員会