ルルドの泉で

20111206cpicm.jpgたとえ現代医学では治せないと宣告された病気であっても、その水を浴びるやいなや治ってしまうという言い伝えの「ルルドの泉」。その癒しの奇跡を求め、今や一大観光地となってしまったこの地での奇跡、そしてそれに対する人々の羨望や嫉妬を描いたのが本作だ。

20111206cpic1.jpg不治の病により車椅子生活を余儀なくされ、また両手すら自由に使うことのできないクリスティーヌ(シルヴィー・テステュー)。何もできない人生に無力感を感じ、障害者のための巡礼地めぐりぐらいしか楽しみのない彼女が訪れたのは、かの有名なルルドの泉。そのツアーのある日、クリスティーヌの体は回復する。奇跡が起きたのだ。だが、さほど信心深くなかった彼女に訪れたその奇跡に、同じツアーの参加者たちは羨望と同時に嫉妬の念をも抱いていく……。

サスペンスフルドラマと銘打ってはいるが、誰かが殺されたりストーリーが幾重にも込み入っていたりということはない。物語は淡々と、まるでドキュメンタリーかのように多くを語らずに進んでいく。監督はオーストリア出身だが、その筆致はフランス映画さながらだ。
ハリウッド映画のようにヒステリックに叫ぶ者や、劇的なセリフというのも存在しないから、そうした刺激的な作品に慣れきってしまった御仁にとってはつまらなく思えてしまうかもしれない。あるのはただただ、障害や病を背負った者たちの日常の延長としての行ないや言葉、表情だけだ。だが逆に、抑えに抑えたその表現から滲み出てくるのは、主人公や多くの登場人物を含めた巡礼者たちの心のなかの不安、焦り、苛立ち、嫉妬。そして巡礼者たちを支えるはずのボランティアたちの冷淡さ。鑑賞後も、これがまるで胸騒ぎのように心を圧迫してくる。重厚とはこのことだ。

本作は、奇跡があるかどうかを観客に問う映画ではない。神からの寵愛を受けるのは信心深い人である必要があると誰もが思っているのに、そうした資格はないと思われていた人物に実際に奇跡が起こってしまう……そのことを、多くの人は許すことができないのだ。
ちょうど、さほど働いてもいないくせに、給料だけは何故か多くもらっている人を訝るように。奇跡は労働の対価ではないにも関わらず、信心の見返りをどうしても求めてしまう。体に難があるのならなおさら、すがる思いだろう。もしかしたら、そうした「他を羨む」という人間心を戒めるために、神は信心不信心に関わらず、無作為にそうした奇跡を起こしてくださるのかもしれない。

ヴェネチア国際映画祭で5部門を受賞するなど、評価も高い本作。クリスマスのこのころに、厳かに自分を振り返るのにも最適な一品。


監督・脚本:ジェシカ・ハウスナー
出演:シルヴィー・テステュー/レア・セドゥ/ブリュノ・トデスキーニ/エリナ・レーヴェンソン
配給:エスパース・サロウ
公開:12月23日(金)よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー
公式HP:lourdes-izumi.com
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