女優・香川京子、日本人初FIAF賞受賞記者会見!「私のころは監督が偉すぎてお話もできないといった感じでした」

kagawa01.jpg去る9月6日(火)、都内で女優・香川京子の日本人初FIAF(国際フィルム・アーカイブ連盟)賞受賞の記者会見が行なわれ、受賞者の香川京子と東京国立近代美術館フィルムセンター主幹の岡島尚志氏、東京国際映画祭事務局長の都島信成氏が出席した。

kagawa02.jpgまずはご挨拶をどうぞ。
岡島:
FIAFは、世界中の映画を保存をしている、世界80カ国150団体からなるグループです。2001年から映画保存に貢献してくださった方々の中から毎年一人の方に賞を贈呈させていただいております。第1回のマーティン・スコセッシからマノエル・ド・オリヴェイラ、イングマール・ベルイマン、ジェラルディン・チャップリン、マイク・リー、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、リブ・ウルマンなど数々の素晴らしい方々が受賞され、2011年は、日本の偉大な映画女優である香川京子さんに贈呈されることが決定しました。これは、アジアの映画俳優として初めての受賞となります。香川さんは、これまでフィルムセンターにたくさんの資料を寄贈していただきました。また、映画保存のためにさまざまな発言をしてくださいましたし、キャンペーンなどにも快く協力してくださいました。そういったことが、今回の主な受賞理由だと考えています。

kagawa03.jpg都島:東京国際映画祭にて「香川京子さんと巨匠たち」という特集を組むことが出来て大変光栄に思っています。『近松物語 』をはじめ数々の作品をご堪能いただければと思っています。この場を借りて今年の東京国際映画祭の特徴をお話しさせていただきますと、"TIFF ARIGATOプロジェクト"という名前で被災者の方への支援に取り組んでいきます。募金活動に賛同いただける方はぜひご協力お願いします。ご協力いただいた方に緑色のリストバンドをお渡ししております。

香川:先ほどからみなさんに香川、香川と言っていただき、なんだかドキドキして汗をかく思いでおります。FIAFのことはあまり知識がありませんでしたが、「フィルム・アーキビスト」というお仕事をされていた方々が大変苦労をされてフィルムの保存とか修理をされていることを知りました。私個人としましては、手元にあったスチールやスナップ写真、資料など自分では保存しきれなかったので、フィルムセンターにお預けしただけだったんです。ですから今回の受賞は、とても光栄であり、ありがたいことなのですが、同時に申し訳ない気持ちでおります。これまで受賞されてきた方々のお名前を知ってまたビックリいたしました。私なんて足元にも及ばないけれど、この賞をきっかけに出来る限りのお手伝いをさせていただこうと思っています。4年前、東京国際映画祭の審査委員をさせていただいた時に、海外の方から『東京物語 』を観ましたなど、たくさんの方に声をかけていただき大変感動しました。これも素晴らしい監督さんと仕事をさせていただいたおかげだと感謝の気持ちでいっぱいになりました。これは古い素晴らしい作品が立派に保存されてきたことだと改めて思いました。

kagawa04.jpgこれより質疑応答です。
いままでに影響を受けた女優さんはいらっしゃいますか?
香川:
影響を受けた方はたくさんいらっしゃいますが、女優でしたら、大先輩の田中絹代さんでしょうか……。『おかあさん』という作品でご一緒させていただいましたが、その役になりきりカメラの前に立たれると、声をかけることもできない鬼気迫るものを感じました。私もいつか田中さんのような女優になれたらいいなって思いました。田中さんに限らず高峰秀子さん、原節子さんなど素晴らしい先輩の方たちから、演技に限らずその生き方などいろいろなことを学ばせていただきました。

昔と今の映画の違いについて教えてください。
香川:
いちばんの違いは撮影所がなくなったことじゃないでしょうか? 昔は大きな会社がバックにありましたけど、今はほとんどが独立プロダクションだと思います。小津組、黒澤組、溝口組などグループが決まっていて、そのなかで撮影をしていました。今では誰でもが映画が撮れる時代になったと思います。そういう自由さがありますね。私のころは監督が偉すぎてお話もできないといった感じでしたが、今は監督と女優さんがお友達みたいで……そういうところがとても不思議です(場内笑)。

監督との印象に残っているお話しなどございますか?
香川:
私にとってなにがいちばんかと聞かれたら『近松物語』なんです。溝口(健二)監督は、演技指導をまったくしない方で、出来るまで何回もやらせる。始めは手も足も出ないで辛い思いをしました。小津(安二郎)監督はまったく違って、あのローアングルのカメラがセット
されていて、俳優は言われたところに座って演技をするという形でした。黒澤(明)監督と溝口監督は似てらっしゃると思います。黒澤監督の作品には女性があまり登場しないので、その存在が非常に難しい。たとえば、『天国と地獄 』の大接間のシーンで奥さんの私は黙って座っているんですけど、俳優陣のセリフに反応していなければならない、その緊張感の連続でした。"リアクション"ということをよく溝口監督に言われたんですが、そのことが黒澤監督作品でも生かされていて、やっぱり溝口監督が私のなかではいちばん大きな存在ですね。

溝口監督はワンカットが長いことで有名ですが、いかがでしたか?
香川:
私は長いカットは嫌いではないです。気持ちがずっと繋がりますので……。黒澤監督はカメラが遠くに設置されていて、どこを撮られているかわからないんです。カットが長いとカメラを意識しないで演技に集中できます。

kagawa05.jpg俳優や映画監督など若い人たちへ、なにかメッセージはありますか?
香川:
日本映画に限らずたくさん残っている優れた作品を観てほしい。それがいちばんいいことだと思います。あと、いろいろなことに興味を持つということが大切だと思います。私もこの世界で60年以上になりましたが、優れた方たちとのいろいろな経験が自分を豊かにしてくれたと思います。そのときはこんなことして無駄だなって思っても、決して世の中に無駄なことってないと思います。必ずなにかの役に立っていると私は思います。

フォトセッションの後、香川京子を囲んでのカクテルパーティーが行なわれた。

<香川京子プロフィール>
東京都出身。1949年に新東宝入社。その後フリーになり各社の作品に出演。代表作に『おかあさん』(52年、監督・成瀬巳喜男)、『ひめゆりの塔 』(53・今井正)、『東京物語』(53・小津安二郎)、『近松物語』(54・溝口健二)、『どん底 』(57・黒澤明)、『深い河 』(95・熊井啓)など巨匠たちの傑作に数多く出演。『式部物語 』(90・熊井啓)でキネマ旬報助演女優賞、『まあだだよ 』(93・黒澤明)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞などを受賞。同年、毎日映画コンクールにて長年の業績を称えられ田中絹代賞が贈られた。98年秋、紫綬褒章、04年秋、旭日小綬章を受賞。著書に『ひめゆりたちの祈り 』(92年、朝日新聞社刊)がある。

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第24回東京国際映画祭
開催:10月22日(土)〜10月30日(日)
特集「香川京子と巨匠たち」国立近代美術館フィルムセンター共催
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
★上映作品
近松物語/東京物語(デジタルリマスター)/王将一代/驟雨/猫と庄造と二人のをんな/どん底/杏っ子/赤い陣羽織/男はつらいよ 寅次郎春の夢
 


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