瞳の奥の秘密

アカデミー賞外国語映画賞といえば、08年に日本の『おくりびと』が受賞したこともまだ記憶に新しい。そして本年度はアルゼンチンの本作が見事受賞に輝いた。本国アルゼンチン・アカデミー賞でも13部門を受賞した相当の傑作なのである。

刑事裁判所を定年退職したひとりの男。彼は仕事も家族もない孤独な人生を埋め合わせるため、小説を書こうと決意する。題材は25年前に実際に起きた凄惨な殺人事件。女性でありながら今では検事に昇格し、二人の子どもの母親でもある当時の上司は、彼の助けにと古いタイプライターを貸し出す。執筆活動に入るうちに、男の脳裏には当時の記憶が鮮明に甦る。それはまた、心の奥に秘めていたある想いをも呼び起こしていき……。

誰もが現実社会で直面する理不尽な出来事。本作の殺人事件も当時の政治情勢によって未解決に“させられてしまった”ものだ。それと重なる形で男の恋心も封印せざるを得ない状況に追い込まれる。だが、本当の赤い糸とは1本しか存在しないのだろう。様々な出来事にまみれ見失いかけていたその糸は、事件の顛末が明らかになる度に少しずつ顔を覗かせる。また、事件で寡夫となったもうひとりの男は、その純粋すぎる究極の愛を亡き妻に捧げる。すべての要素が見事に絡まりあい、調和しあい、抗いがたい人生の不条理が浮き彫りとなる。だが、その不条理を解決するのは紛れもなく自分自身しかいないのだという真実もまた明らかになるのだ。

マラドーナを生み出したアルゼンチンのサッカーも物語に登場し、まだ覚めやらぬワールドカップ熱をまた思い起こさせてくれるのも嬉しい。これぞ映画! という描写に満ち溢れた本作は、劇場でゆっくりと堪能するに値する、大人のための大人の映画なのだ。

瞳の奥の秘密(DVD)
監督:ファン・ホセ・カンパネラ
脚本:エドゥアルド・サチェリ/ファン・ホセ・カンパネラ
出演:リカルド・ダリン /ソレダ・ビジャミル /パブロ・ラゴ/ハビエル・ゴディーノ/ホセ・ルイス・ジョイア
配給:ロングライド
ジャンル:洋画
公式サイト:http://www.hitomi-himitsu.jp/

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