しあわせの隠れ場所

互いが互いを思いやり、それなのに気を遣わなくてもよく、心からリラックスでき、経済状態も裕福なあたたかな家庭。かたや、ドラッグで崩壊した家庭に育ち、満足に学校にも行けず、満腹に食べることもできず、屋根の下から放り出される子どもたち。

アメリカ社会の縮図ともいえるそんな「格差」を飛び越え、血の繋がりがないにも関わらず幸せな家庭を築き上げた「他人同士」。本作は、昨年4月にプロのアメフト・リーグNFLのボルティモア・レイブンズにドラフト指名され、5年契約した新人プレイヤー、マイケル・オアーの実話をもとにした心あたたまるヒューマン・ドラマだ。

父親の顔も知らず、母親とは引き離され、家も寝る場所もなく寒空に放り出された少年、マイケル・オアー。そんな彼に声をかけ、豪邸のような自宅に住まわせ始めたリー・アン(サンドラ・ブロック)。大きな体に見合わず抜群の運動能力を持つマイケルは、リー・アンの人生を段々と変え始めていく……。

誤解を恐れず言うとすれば、実は本作には「ここ」という見せ場は無いに等しい。スラムに住まう不良少年はとても穏やかで優しくて恐怖感も感じられないし、クライマックスのマイケルと家族たちの葛藤にしても、映画というエンターテイメント性が必要なコンテンツの性質上、無理やり起承転結をつけざるを得なくてあえて頑張って危機的状況を作ってみたはものの、登場人物の心根すべてが善良なるものなので、まったくもって危機感は感じられない。

それにも関わらず本作の随所で思わず涙を流し、観賞後にとてもハッピーな気持ちになれるのは、実際の我々の幸せというものが特段のエンタメ性を必要とせず、むしろ同じようなことの繰り返しで平凡な日常の中にこそ幸せは潜むものであり、劇中で起こるとある事件よりも何よりもその平凡性による幸福感こそが、観賞後の心にじわじわと染み渡ってくるからなのである。
何故にマイケルにこれほどの幸運が訪れたのだろうか? 劣悪な環境にあっても決して実の家族を憎むことなく、裕福な家庭に触れても、それを羨ましいだとか自己の環境との差を見ていじけたりだとかそうしたこともなく、ただただ与えられた運命に感謝できるという彼の人格こそが、その運命を引き寄せたのだろう。

心あたたまり、そして洗われる1本。心を掴んで離さないサンドラの演技とともに、きっと観る者の人生を変える、なんらかのきっかけとなるに違いない。

しあわせの隠れ場所(DVD)
ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟(単行本)
原作:マイケル・ルイス『ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟』
監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ジョン・リー・ハンコック
出演:サンドラ・ブロック /ティム・マッグロウ /クイントン・アーロン/キャシー・ベイツ/リリー・コリンズ/ジェイ・ヘッド/レイ・マッキノン
配給:ワーナー・ブラザース映画
ジャンル:洋画
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/theblindside/

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