実はね、尊敬してるんだ
こぐれひでこと出会ってから何年になるのだろう、足の指まで総動員して数えても足りないほどの長い年月をつかず離れずというよりも、ついたり離れたりでお付き合いしている。

何をかくそう、わたしたちは高校の同級生なのだ。

彼女は積極的で努力家の優等生・・・でもないか、いや、成績はよかったのよね、たぶん。

わたしは、なまけもので、ワガママで・・・と自分では思ってないけど、そう思っているかもしれない。

彼女の住処には、下宿をはじめとして、パリの家を除けばすべてにお邪魔している。彼女もわたしの住処にはすべて来ているはず。

以前、わたしが初めてこの家を訪れたときは建築後 2 、 3 年の頃。たしか 5 月のさわやかな日だった。外観の面白さとは違い、住いはどこそこお洒落な空間だった。長身のバスケット選手だって楽々通れるドアや高い天井。洗面やお風呂のスペースが家の中央にあり、トイレはドアなし。すべての部屋が南向き全面ガラスの家など見たことがなかった。

「このお風呂がねえ、気持ちがいいんだよ」

モロッコまで行って購入したというテラスに敷き詰めたタイルは、海のさざなみを思わせる色合いで、ほんとうに素敵!

そのテラスを挟んで台所と隠れ家レストランのようなダイニングがある。

「雨の日がねえ・・・、駆けて行くか傘さして行く」

キッチンからの眺めは、高台に建っているから眺望を遮るものがなく、おそらく夜景の美しさは天下一品だろう。残念ながらまだ夜景を拝見したことはないが。

この家を建てる前の住いも素敵な家だった。

もともと外人が住んでいたというその家は、とにかく広いリビングと使いやすそうなキッチンが印象に残っている。そして、大きな暖炉。周りに敷き詰められた煉瓦の上に、薪を置き、波乱万丈なわたしの人生の一時を、彼女に訴えた記憶がある。

たしか、彼女は愛犬のルンルンを亡くし、動くものが欲しくて暖炉を買い、炎を見つめていると心が休まると言っていたっけ。

そういえば、わたしの心を静めるために、今ほどはポピュラーではなかったアロマオイルを炊き、

「さあ、さあ、あなたのために心が穏やかになるオイルだよ」と迎えてくれた。

美味しい食事も用意してくれ、夜遅くまでつまらない行ったり来たりの話に付き合ってくれた。

あのときはありがとう。この場を借りてお礼を言います。

さて、わたくしごとはともかくとして、前に訪れたときと今回では大きく変わったことがある。

それは、テラスの一角に茂った藤棚。キッチンの屋根に広がる畑。テラスのあちこちに置かれた野菜たちの鉢。しかも、素晴らしい実をつけている。立派な畑だ。

素敵な家を建てると、建物が一番大事にされて磨きこまれ、緊張して生活している家はよく見るが、こぐれ家はそこに住んでいる TORU 君とひでこの暮らしが主役。磨き上げて使わずというものは一つも無い。さりげなくというより惜しげもなく使い、楽しんでいる。前回と今回の訪問で、その証明書を見せられたような気がした。

本当の楽しみ方を知っているからこその生活だと思う。

家を遊び、道具を遊び、食を遊び・・・。

(家に遊ばれ、道具に遊ばれ、食に遊ばれるって案外多い。)

暮らしの主役はいつでも自分たち。

彼らこそが真のあそびすと、これは間違いないだろう。